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ID番号 09009
事件名 行政処分取消等請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 東京都(M局職員)事件
争点 約3年間で72回に及ぶ遅刻等を理由とする停職処分の効力が争われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) 東京都(Y)がそのM局職員であるXに対し、正当な理由なく、72回につき出勤時限に遅れた上、そのうち71回につき部下に指示して出勤記録なしを「出勤」の表示を意味する「○」に修正させたことを理由として、平成22年に停職3月の懲戒処分(停職処分)をしたため、Xが、Yに対し、本件停職処分の取消し等を求め提訴したもの。
(2) 東京地裁は、本件停職処分は違法であるとして、これを取り消し、また、本件停職処分には国家賠償法上の違法もあるとして損害賠償請求を認めたが、東京高裁は本件停職処分に違法はなく、これによる違法な権利侵害もないとして、東京地裁の判決を全面的に取り消した。
参照法条 労働契約法15条
国家賠償法1条
地方公務員法29条
地方公務員法32条
地方公務員法35条
体系項目 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/職務懈怠・欠勤
裁判年月日 2014年2月12日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(行コ)242号
裁判結果 原判決一部取消、附帯控訴棄却
出典 労働判例1096号64頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 一審 東京地裁/平成25年6月6日/平成22年(行ウ)741号
上告・上告受理申立
評釈論文
判決理由 東京都M局においては、所定操作によって出勤記録を自ら入力することは、「勤務時間等規程」、「処務規程」、「事務処理要領」などの規程上、職員の基本的な服務上の義務であり、Xもこれに従っているが、本件停職処分の対象日となった72日については出勤時限前の入力をしていない。これらによれば、Xが出勤時限前の入力をしていないという事実と前記(略)の各証言とが相まって、処分対象の72日については、Xがその理由はともかく遅参したことが一応推認されるというべきである。
平成18年5月1日、8日、平成20年3月19日の3日間については、Xにおいて出勤の入力を行うことが客観的又は主観的に不可能であったから、これらの日については、出勤の入力がされていないことから遅参の事実を推認することはできないというべきである(遅参の事実を推認する前提事実に欠ける。)。
これらの点(時限前出張)ついてのXの供述は信用することができず、いずれの日においても時限前出張、すなわちXが出勤時限前から勤務をしていたことを認めることはできない。
Xは、平成21年2月5日につき、監査事務局定例監査で午前8時30分に所長挨拶をしたと主張する。しかし、平成21年定例監査の開始時刻は、「監査員から別途指示がない限り、午前10時」と定められており(〈証拠略〉)、同通知の別紙2で、「実査会場等において、管理職及び係長紹介後、事業概要の説明を10分程度で行う。」とされているから、Xの主張を認めることはできない。
平成18年7月10日についても、Xが午前8時30分に所長挨拶をしたことを認めるに足りる証拠はない。(中略)仮に同日の監査が服務監査であったとしても、所長挨拶が必ず午前8時30分から開始されたというX主張を認めることはできない。
以上によれば、本件停職処分において遅参とされた72日のうち、平成18年5月1日及び同月8日並びに平成20年3月19日については、遅参の事実を認めることはできない。他方、その余の69日については、前記の遅参の推認を覆す事実関係があるとはいえないから、遅参の事実が認められるというべきである。
Yは、Xから2日にわたって事情を聴取しているが、その際には、本件停職処分対象期間のXの勤怠状況を示す年間出勤簿(証拠略)を示して、本件停職処分対象日の遅参、修正指示の有無について聴取しており、Xの防御の機会を与えている。また、Xの反論等も踏まえ、営業所の勤怠整理事務を担当した職員6人のうち重要度が高いと認められる4人から事情聴取した上で、本件停職処分をしており、処分通知書に遅参72日、修正指示71日の具体的な日付が記載されていないことを考慮しても、本件停職処分の手続が違法であるとまではいえない。
Xは、仮に遅参が認定されたとしても、その遅参時間は明らかではないなどとして、本件停職処分が比例原則にも反する旨主張するが、(証拠略)によれば、何日かの遅参につきその遅参時間の認定ができなくないではないものの、本件停職処分は、いずれも職権により、遅参時間を最小の1分として行われ(証拠略)、この遅参事実のほか、Xの入力指示がYの懲戒処分の指針(証拠略)の第5の(6)の虚偽報告に当たること、Xが管理職員として、自らの有する権限を背景に不正を行ったと判断されたことなどから、Xを停職3か月とする本件停職処分がされたものであって、(証拠略)の取扱基準及び(証拠略)の標準処分量定からみても、本件停職処分が比例原則を逸脱したものということもできない。
その他、Xは、本件停職処分の違法性及びこれを基礎づけるY提出証拠につきるる主張するが、いずれも採用することはできない。
以上から、Xの本件停職処分の取消しを求める請求は、理由がない。
上記によれば、本件停職処分が違法であることを前提とするXの損害賠償請求は理由はない。
Xは、プレスリリースの違法を別途主張し、慰謝料を求めるが、(証拠略)によって認められるプレスリリース内容とこれによる新聞記事の内容がXの名誉を毀損したり、プライバシーを侵害するものであるとは認められないから、Xの請求は理由がない。