全 情 報

ID番号 09031
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 エムズ・コーポレーション事件
争点 退職金を減額した新就業規則の合理性が問われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1) ソフトウェア開発等を行う株式会社である被告Y(エムズコーポレーション)に勤務していた原告Xが,平成24年3月末日をもって退職する意思を伝えると、Yから退職時期に関して要望があったことから、同要望に応じて退職時期を変更したところ、同年4月1日付けで就業規則が変更され,変更後の就業規則では退職金等が不利益に変更されているが,変更に合理性がなく無効であるとして,変更前の就業規則に基づき、退職理由を「会社都合」とする退職金の支払を求めるとともに、YはXを狙い撃ちにして退職金の支払義務を免れようとしたものであり、かかる行為は不法行為に該当するとして、損害賠償を求め提訴したもの。
(2) 大阪地裁は、就業規則の変更に合理性はないと判断した一方、Yの行為は不法行為に該当しないとして、Xの請求を一部認容した。
参照法条 労働契約法10条
民法709条
体系項目 就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/退職金
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 2015年1月27日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)第30028号
裁判結果 一部認容
出典
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則(民事)-就業規則の一方的不利益変更-退職金〕
 旧規則では,懲戒解雇された場合などの例外的な場合を除いて、退職金が原則として支給されることとなっており、また、その基準も一義的に明確であったものが、新規則では,退職金の支給の有無自体が会社の裁量に委ねられることとなり、金額についても、明確な基準が存在しないこととなることからすれば、本件変更が労働者にとって不利益であることは明らかである。(中略)
 本件変更によれば、旧規則のもとでは退職金を受給できるはずであったものが,新規則のもとでは、退職金が実質的には廃止され,会社の自由裁量による恩恵的な措置にとどまることになるという極めて大きな不利益を被ることになる。Yは,エクセレンスと合同で退職金積立を目的とした保険に加入するなど、できる限りの不利益緩和措置を実施している旨主張するが,Yがそのような措置を講じていることを客観的に裏付ける証拠はなく、仮に,Yがそのような措置を講じていたとしても,Xについて,どの程度不利益が緩和されるのかについて何ら具体的な主張・立証もしていないことからすれば,Xを含む労働者が被る不利益が緩和されているということはできない。また、本件変更は、上記のとおり、突如として退職金を廃止するものであって、段階的に退職金の金額を削減していき、最終的に廃止するというような配慮も講じられていない。
 以上を総合考慮すると、本件変更によって労働者が被る不利益は余りにも大きく、過酷であるというほかなく、そのような不利益を労働者に受忍させることを許容し得るだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできず、本件変更の効力をXに及ぼすことはできない。
〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 本件変更が、Xを狙い撃ちにしたものであるとまではいうことができない。
(3)以上からすれば,本件変更によって、Xに、金銭をもって慰謝しなければならないほどの精神的苦痛が生じたと認めることはできない。