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ID番号 09034
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 国際自動車事件
争点 定年退職後の元社員と会社との契約の成立の有無等が問われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) タクシーによる一般旅客自動車運送事業等を営む被告株式会社Y(国際自動車)と雇用契約を締結し、タクシー運転手として稼働し、64歳の定年を迎えた原告Xが、定年後も、Yによる雇用が継続するとの労使慣行、又は黙示の合意の成立、若しくは合理的な雇用継続に対する期待があるにもかかわらず合理的な理由なく再雇用を拒否されこと、のいずれかの事情の下、Yに再雇用されていると主張し、主位的に、Yにおける労働契約上の地位の確認を求めるとともに、雇用契約に基づき、再雇用後の賃金の支払を求め、予備的に、当該再雇用の拒否が権利濫用若しくは不当労働行為であり不法行為に該当すると主張し、損害賠償の支払を求め提訴したもの。
(2) 東京地裁は、XY間の黙示の労働契約成立を否定して地位確認請求を棄却し、不当労働行為の成立も否定して損害賠償請求を棄却した。
参照法条 民法709条
労働契約法6条
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条
労働組合法7条
体系項目 労働契約(民事)/成立/成立
労働契約/労働契約上の権利義務/労働慣行・労使慣行
労働契約/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償
退職/定年・再雇用/定年・再雇用
裁判年月日 2015年1月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)第3301号
裁判結果 棄却
出典 労働経済判例速報2241号9頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約(民事)/成立/成立〕
〔労働契約/労働契約上の権利義務/労働慣行・労使慣行〕
〔退職/定年・再雇用/定年・再雇用〕
定年後乗務員を再雇用する労使慣行の有無について
 Yにおいては、平成10年に、定年後の乗務員の雇用継続について労働者供給事業を利用する枠組みを採用し、事実上、乗務員については就業規則25条2項に基づく嘱託又は要員としての再雇用を行っていないこと、Yにおいては、Yとの間で労働者供給事業に関する基本契約を締結している労働組合の組合員たる乗務員が定年後の雇用継続を希望した場合、当該乗務員が労働者供給事業に参加するとの申込みを所属組合に行うことを前提として(当該申込みがなければ、Yは当該労働組合から当該乗務員の供給を受けることができない。)、種々の要素(前記1(1)エ(イ))を勘案の上、当該乗務員を定年後も所属組合から供給を受けた労働者として雇用契約を締結するか否か、個別的に判断しており、雇用の継続を希望していた乗務員について、雇用しないとの判断を行った例も存在するところである。
 こうした客観的状況に照らせば、Yが、定年後の雇用継続を希望する乗務員を原則として再度雇用するという取扱いを行っていたとの事実を認めることはできない。したがって、Xのこの点に関する主張は、慣行と評価すべき事実自体が存在せず、前提を欠くものとして理由がない。

〔労働契約(民事)/成立/成立〕
〔退職/定年・再雇用/定年・再雇用〕
Xを再雇用するとの黙示の合意の有無について
 Yにおいて、定年後乗務員のうち、希望した者は特別な事情のない限り、再雇用されることが長期間にわたり反復継続して行われていたとの事実が認められないことは、前記2で判示したとおりであり、Xの前記主張は前提を欠くものである。
 さらにいうと、Y内部の労働者供給事業に関する手順書(書証略)において、労働者供給事業を利用して乗務員を再雇用する際、当該乗務員との間で労働契約書を作成する旨規定していることが認められること、及び、Yとしては、これ以外の方法による乗務員の再雇用を事実上予定していない(前記1(2))ことや、従前のXの勤務態度(前記1(4))が、交通事故ないし交通違反を犯さず、タクシーセンターに持ち込まれるような苦情案件等を生じさせていない点、速度違反については、客が急いでいるときや危険を回避するときなどにやむを得ず短時間犯してしまうこともあること(人証略)を考慮してもなお、安全運転指導に必ずしも素直に応じず、時には上司に強い口調で不平を述べるなど、必ずしも良好とは評価し難いことに照らすと、Yにおいて、就業規則25条2項に基づく再雇用、又は同項に基づくものとは別に端的にXを再雇用すること、について黙示的に合意(認容)する意思があったと認めることもできない。

〔労働契約(民事)/成立/成立〕
〔退職/定年・再雇用/定年・再雇用〕
 定年退職後の再雇用は、それまでの雇用契約とは別個の新たな契約の締結に外ならない。すなわち、使用者は労働者を再度雇用するか否かを任意に決めることができ、新たな雇用契約の内容については、労働者及び使用者双方の合意(申込み及び承諾)が必要であり、労働者において、新たな雇用契約が締結されるはずであるとの期待を有して契約の締結を申し込んだとしても、使用者において、当該期待に応ずるべき義務が生ずる基礎がなく、それゆえ、申込みに対する承諾なくして労働者と使用者間に新たな雇用契約が締結したというべき法的な根拠はない。
 したがって、前記Xの主張は、それ自体失当である。

〔労働契約/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償〕
YのXに対する不法行為の成否について
 定年退職後の新たな雇用契約の締結(雇入れ)の問題であるところ、雇入れの拒否は、それが従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの特段の事情がない限り、労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いには当たらないと解するのが相当である。(最高裁判所平成13年(行ヒ)第96号平成15年12月22日第一小法廷判決・民集57巻11号2335頁参照)。そこで、以下では、Yがなかまユニオン及び全労との労働者供給に関する基本契約の締結をしなかったことが、前記不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの前記特段の事情に当たるかを検討する。〔中略〕
 Yが、なかまユニオンとの間で労働者供給に関する基本契約を締結しなかったことについては、なかまユニオンはいわゆる一般労組であるため、仮になかまユニオンと労働者供給に関する基本契約を締結した場合、いかなる組合員が労働者供給を申し込むことになるのか、Yにおいて把握できなかったことから、上部団体又は外部組合とは契約の締結ができない旨回答しており(人証略)、Yの対応として無理からぬ面があるともいいうるところ、X本人の供述によれば、なかまユニオンは、この点に関してYに格別説明を行っていないことがうかがわれる。以上の経過に照らせば、Yが、なかまユニオンからの労働者供給に関する基本契約の締結に応じなかったことには、相応の理由があったものといえ、Xに対する不利益取扱い(労働組合法7条1号本文)に当たるとまではいえない。