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ID番号 09053
事件名 行政財産使用不許可処分取消等、組合事務所使用不許可処分取消等請求控訴事件事件
いわゆる事件名 大阪市(組合事務所使用不許可処分取消等請求)事件
争点 市による組合事務所使用不許可処分の違法性が問題となった事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) 控訴人Y(大阪市、被告)の職員が加入する労働組合、職員団体又はその連合体(以下、これらを併せて「労働組合等」という。)である被控訴人X(原告)らが、Yの市長に対し、平成24年度から平成26年度の3回にわたって、市役所の本庁舎内の一部を組合の事務所として利用するため、その目的外使用許可を申請したところ、いずれも不許可処分を受けたことから、上記各不許可処分は違法であるとして、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払を求めるとともに、平成26年度の上記不許可処分について、その取消しを求め提訴したもの。
(2) 大阪地裁は、Yの市長が行った本件各申請に対する上記各不許可処分は、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものであり、裁量権を逸脱・濫用したものであるから違法であるとして、Xらの国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求及びこれに対する遅延損害金請求をそれぞれ一部認容するとともに、平成26年度の上記不許可処分を取り消したことから、これを不服とするYが本件各控訴を提起したところ、大阪高裁は原判決を変更し、平成24年度不許可処分のみ違法とし、平成25年度、26年度については適法とした。
参照法条 地方自治法238条の4
労働組合法2条
労働組合法7条
労使関係に関する条例〔大阪市〕12条
体系項目 労基法の基本原則(民事)/国に対する損害賠償請求/国に対する損害賠償請求
裁判年月日 2015年6月2日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(行コ)第162号
裁判結果 原判決変更(確定)
出典 判例時報2282号28頁
判例地方自治399号38頁
審級関係 一審  平成26年9月10日/大阪地方裁判所/第5民事部/判決/平成24年(行ウ)78号
評釈論文 奥宮京子、高橋哲也・判例地方自治407号4~9頁2016年6月
判決理由 〔労基法の基本原則(民事)-国に対する損害賠償請求-国に対する損害賠償請求〕
 地方公共団体の庁舎は、地方自治法238条1項にいう「公有財産」であり、同条4項にいう行政財産のうち、「公用」に供する財産に該当するものである。行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる(同法238条の4第7項)。
 Xらは、いずれも従前から、市本庁舎内の本件事務室部分について、使用の許可(同法238条の4第7項)を得て、同部分を労働組合等の事務所として使用を継続してきたところ、平成24年度の使用許可申請に対して、これを不許可とする処分(平成24年度不許可処分)がされ、また、平成25年度及び平成26年度の使用許可申請に対しても、これを不許可とする処分(平成25年度不許可処分、平成26年度不許可処分)がされたものである。
 行政財産である市本庁舎内の本件事務室部分について、その使用を許可するか否かは、原則として、その管理者であるYの市長(同法148条、149条6号)の裁量に委ねられているものと解するのが相当である。すなわち、行政財産の用途又は目的を妨げる場合には、その使用を許可することができないことは明らかであるが、そのような事情がないからといって当然にその使用を許可しなければならないものではなく、行政財産である市本庁舎の目的及び用途と目的外使用の目的、態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により、使用許可をしないこともできるものである。
 したがって、本件においては、管理者である市長の裁量権の行使が逸脱・濫用に当たるかが問題となるところ、管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性など、許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱・濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である(最高裁平成15年(受)第2001号同18年2月7日第三小法廷判決・民集60巻2号401頁参照)。
 また、本件各不許可処分は、労働組合等であるXらが、組合事務所として使用していた本件事務室部分に係るものであるが、労働組合等が当然にYの行政財産を組合事務所として利用する権利を保障されているということはできず、Yにおいて、労働組合等による上記利用を受忍しなければならない義務を負うと解すべき理由はないのであって、このことは、従前、組合事務所として利用するための使用許可が1年ごとに繰り返されてきたとしても、変わるものではない(最高裁昭和49年(オ)第1188号同54年10月30日第三小法廷判決・民集33巻6号647頁、最高裁昭和63年(行ツ)第157号平成元年12月11日第二小法廷判決・民集43巻12号1786頁、最高裁平成3年(行ツ)第34号同7年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事176号699頁参照)。したがって、本件各不許可処分が裁量権の逸脱・濫用となるかどうか判断するに当たっては、このような点も考慮しなければならないというべきである。(中略)
2 争点(1)ア(平成24年度不許可処分の違法性)について(中略)
 本件事務室部分の使用許可を与えるか否かの判断が、その管理者である市長の裁量に委ねられており、Xらが権利として本件事務室部分の貸与を求めることができないことなどを考慮したとしても、平成24年度不許可処分は、その判断要素の選択に合理性を欠くところがあり、かつ、その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるので、裁量権を逸脱・濫用したものというべきである。
 したがって、平成24年度不許可処分は違法である。
3 争点(1)イ(平成25年度不許可処分の違法性)について(中略)
 平成25年度不許可処分は、本件条例12条に基づいて行われたもので、市本庁舎内に必要な行政事務スペースを確保するために行われたものということができ、Xらが被る不利益も上記の程度のものでやむを得ないということができるから、憲法並びに労組法及び地方公務員法の規定やその趣旨に反する(Xらの団結権等を侵害する)ということはできず、合理的な根拠に基づいて行われたものであって、これについての市長の判断が、社会通念に照らし妥当性を欠き、その裁量権の範囲を逸脱したり、濫用したものであるということはできない。
 したがって、平成25年度不許可処分は違法であるということはできない。
4 争点(1)ウ(平成26年度不許可処分の違法性)について(中略)
 平成26年度不許可処分も、平成25年度不許可処分と同様、本件条例12条に基づき、市本庁舎内に必要な行政事務スペースを確保するために行われたものということができ、Xらが被る不利益も前記3(4)のとおりやむを得ないということができるから、憲法並びに労組法及び地方公務員法の規定やその趣旨に反する(Xらの団結権等を侵害する)ということはできず、合理的な根拠に基づいて行われたものであって、その判断が社会通念に照らし妥当性を欠き、その裁量権の範囲を逸脱したり、濫用したものであるということはできない。
 したがって、平成26年度不許可処分は違法であるということはできない。