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ID番号 09071
事件名 割増賃金等請求控訴事件(342号)/割増賃金等請求附帯控訴事件(499号)
いわゆる事件名 落合事件
争点 労働者が未払時間外手当及び付加金を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1) 被控訴人Xの控訴人Yに対する雇用契約に基づく時間外労働に係る未払賃金(時間外手当)83万7253円及びこれに対する遅延損害金並びに前記時間外手当に係る労働基準法(以下「労基法」という。)114条に基づく付加金及びこれに対する遅延損害金の支払を求め東京簡易裁判所に提訴したところ、原審が一部認容判決をしたことから、Yが控訴し、Xが附帯控訴し、Xは請求を拡張し、時間外手当109万8654円並びにこれに対する遅延損害金及び賃金の支払の確保等に関する法律による遅延利息のほか、労基法114条に基づく付加金90万6634円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
(2) 東京地裁は、Xの主張する労働時間の存在を認め、また事業場外労働の適用を否定して、Xの請求を一部認容した。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法38条の2
労働基準法114条
体系項目 労働時間(民事)/事業場外労働/事業場外労働
雑則(民事)/付加金/付加金
裁判年月日 2015年9月18日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(レ)342号/平成27年(レ)499号
裁判結果 原判決変更、附帯控訴一部棄却
出典
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間(民事)/事業場外労働/事業場外労働〕
 YA支店においては、外回り営業の担当者に直行直帰は許されていないことから、Yにおいて出退勤の時刻を管理することが可能である。外回り営業担当者は、YA支店に出勤後に営業日報に訪問予定先や訪問時間、PR内容を記載した営業予定表を所属長に提出することとされており、訪問予定先の選定や訪問時間、PR内容の決定は、外回り営業の担当者に委ねられているものの、所属長は営業予定表により営業担当者の一日の業務内容を把握することができ、それゆえ、提出された営業予定表の内容の修正、変更を指示することも可能であるといえる。また、外回り営業担当者は帰社後にその日の訪問先や商談内容を営業日報の作成、提出又は口頭により報告することとされており、この報告により概ね営業予定表に沿った訪問や商談がされているか否かを確認し、営業予定表と異なる外回り営業が行われている場合には、外回り営業担当者に更に詳細な報告を求めるなどすることも可能である。
 そうすると、Yにおいては、外回り営業を担当するXの出退勤時刻については事業場であるYA支店において把握することが可能であり、営業予定表及び帰社後の報告を通じて外回り営業中に従事する業務を把握することも可能であって外回り営業中の業務に対しても具体的な指揮命令を及ぼすことが可能であるから、Yの外回り営業への従事が「労働時間が算定し難いとき」に当たるとは認められず、事業場外におけるみなし労働時間制の適用はないというべきである。
〔賃金(民事)-割増賃金-割増賃金の算定方法〕
 労基法37条に違反して時間外手当の支払がない場合、裁判所は、労働者の請求により、使用者に対して、同条により使用者に課せられた義務の違背に対する制裁として同法114条の付加金の支払を命じてその支払義務を課すことができるが、この義務は使用者が時間外手当を支払わない場合に当然に発生するものではなく、裁判所がその支払を命じることによって初めて生じるものであり、使用者に同法37条違反があっても裁判所がその支払を命ずるまで(訴訟手続上は事実審口頭弁論終結時まで)に使用者が未払の時間外手当の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したときには、もはや、裁判所は付加金の支払を命ずることが出来なくなると解するのが相当である(最高裁判所昭和39年(オ)第93号同35年3月11日第二小法廷判決・民集14巻3号403頁、最高裁判所昭和48年(オ)第682号同51年7月9日第二小法廷判決・裁判集民事118号249頁、最高裁判所平成25年(受)第197号同26年3月6日第一小法廷判決・判時2219号136頁参照)。そうすると、使用者は、事実審の口頭弁論終結時までの間は第一審判決により認められた時間外手当の支払義務を履行することにより付加金の支払義務を免れることができるものと解され、使用者が労働者に対して、第一審判決によって支払を命じられた時間外手当等の全額を任意に弁済のため提供した場合には、その提供額が時間外手当の全額に満たないことが控訴審における審理判断の結果判明したときであっても、原則としてその弁済の提供はその範囲において有効なものであり、労働者においてその受領を拒絶したことを理由にされた弁済の供託もまた有効なものと解するのが相当である。このように解することは、付加金の支払を命じることにより労基法37条による時間外手当の支払義務等の使用者の同条違反の抑制を図る一方で、これに違反する場合に任意かつ早期の履行を促す同制度の趣旨にかなうというべきである。
 それゆえ、Yの弁済供託は、原審認容の時間外手当71万2015円に各給与支払日の翌日から年6分の割合による遅延損害金を加えた金額79万9712円の限度で有効であり、Yは、Xに対して、時間外手当44万8152円及びこれに対する平成27年6月2日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延利息の支払義務を負う。