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ID番号 09079
事件名 不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 国・大分労基署長(NTT西日本・うつ病)事件
争点 うつ病発症の業務起因性が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) 西日本電信電話株式会社(以下「NTT西日本」という。)の従業員であるXが、満50歳になる年にYによって導入された、〈1〉50歳でNTT西日本を退職し、従前の勤務地に所在する関連会社に再雇用される雇用形態(以下「退職・再雇用型」という。)か、〈2〉就業規則上期間の定めのない従業員の定年とされている60歳までNTT西日本に在籍する雇用形態(以下「60歳満了型」という。)のいずれかを従業員が選択する制度(以下「本件選択制度」という。)を契機として、業務に起因して精神障害を患ったとして、大分労働基準監督署に対して労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく療養費用の給付及び療養の給付を請求したところ、同監督署長が、業務に起因するものとは認められないとしてこれらを却下する処分(以下、総称して「本件各処分」という。)をしたことから、被告Y(国)に対し、本件各処分の取消しを求め提訴したもの。
(2) 大分地裁は、Xの精神障害発症につき業務起因性を認め、Xの請求を認容した。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法13条
労働基準法75条ないし77条、79条、80条
体系項目 労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/療養補償(給付)
労災補償・労災保険 /業務上・外認定 /業務起因性
裁判年月日 2015年10月29日
裁判所名 大分地
裁判形式 判決
事件番号 平成24年(行ウ)第6号
裁判結果 認容
出典 労働判例1138号44頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/療養補償(給付)〕
〔労災補償・労災保険 /業務上・外認定 /業務起因性〕
 Xには、業務上、本件選択制度自体により、又はその選択過程において、複数の業務上の心理的負荷が発生したものと認められるところであるが、これらは、いずれも本件選択制度による雇用形態の選択という関連した出来事の中で発生したものであると考えられることから、認定基準に照らし、全体として一つの心理的負荷として、その強度を検討することとする。
 上記(2)及び(3)に判示したところによれば、Xは、本件選択制度により、家計の維持及び家庭生活の維持の両立について悩んでおり、これ自体も弱くない心理的負荷であった中で、60歳満了型の選択を考えたところ、特にCから、60歳満了型を選択することでかえって、家計及び家庭生活のいずれも維持できなくなるかのような発言をされて、退職・再雇用型の選択を強要され、相当強度の心理的負荷を加えられたというのであり、Xが元々感じていた不安感等を殊更に助長されたものということもできる。そうであれば、これらを全体として評価すれば、認定基準が定める出来事の例と比較しても、その心理的負荷の程度は「強」に至っているものというべきであり、Xが、Cの面接を受けた日の夜から睡眠障害等の症状を来すことになったことも無理からぬところである。平成22年からXの主治医となっているD医師作成に係る意見書Ⅱ(甲26)及び同Ⅲ(甲29)は、Xの愁訴を無批判に取り入れているきらいはあるものの、退職・再雇用型の選択強要に関する上記判示と、概ね同趣旨をいうものと解される。
 したがって、Xに加えられていた業務上の心理的負荷は、客観的に、平均的な労働者を基準としてみても、精神障害を発症させる程度に過重なものであったと認められる。(中略)
 Xには、精神障害による通院歴があるとか、職務の軽減措置が取られていたとかの、ストレス耐性が脆弱であったことをうかがわせる事情も他に認められないことからすれば、Xは、ややストレス耐性に脆弱な点が見受けられるとしても、当該労働者と職種、職場における立場、経験等の点で同種であって、特段の勤務軽減まで必要とせずに通常の業務を遂行することができる平均的な労働者に該当するものといえる。そして、精神障害を発症した平成19年11月7日頃までの間、業務外で強い心理的負荷を受ける出来事があったことは全くうかがわれないことからしても、その発症については、業務上の強度の心理的負荷が相対的に有力な原因となっているものと認められる。