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ID番号 09184
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 シュプリンガー・ジャパン事件
争点 育児休業後の復職拒否・退職強要または解雇の違法性が争われた事案(労働者勝訴)
事案概要 Y(被告)の従業員であったX(原告)が、産前産後休暇及び育児休業を取得した後に被告がした解雇が男女雇用機会均等法(以下「均等法」という。)9条3項及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「育休法」という。)10条に違反し無効であるなどとして、Yに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、解雇された後の平成27年12月分以降の賃金の支払、ならびにYがXの育児休業後の復職の申出を拒んで退職を強要し、解雇を強行したことは、均等法9条3項及び育休法10条に違反し、不法行為を構成するとして、損害賠償金の支払いを求めた事案である。
参照法条 労働契約法16条
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律10条
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条
体系項目 解雇(民事)/解雇事由/(49)妊娠・出産・育児休業
裁判年月日 2017年7月3日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(ワ)36800号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1178号70頁
労働経済判例速報2332号3頁
審級関係 控訴
評釈論文 和田一郎・労働経済判例速報2332号2頁
小宮文人・労働法律旬報1920号41~45頁
判決理由 :〔解雇(民事)/解雇事由/(49)妊娠・出産・育児休業〕
〔解雇(民事)/解雇権の濫用〕
 妊娠・出産や育児休業の取得(以下「妊娠等」という。)を直接の理由とする解雇は法律上明示的に禁じられているから、労働者の妊娠等と近接して解雇が行われた場合でも、事業主は、少なくとも外形的には、妊娠等とは異なる解雇理由の存在を主張するのが通常であると考えられる。そして、解雇が有効であるか否かは、当該労働契約に関係する様々な事情を勘案した上で行われる規範的な判断であって、一義的な判定が容易でない場合も少なくないから、結論において、事業主の主張する解雇理由が不十分であって、当該解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められなかった場合であっても、妊娠等と近接して行われたという一事をもって、当該解雇が妊娠等を理由として行われたものとみなしたり、そのように推認したりして、均等法及び育休法違反に当たるものとするのは相当とはいえない。
 他方、事業主が解雇をするに際し、形式上、妊娠等以外の理由を示しさえすれば、均等法及び育休法の保護が及ばないとしたのでは、当該規定の実質的な意義は大きく削がれることになる。もちろん、均等法及び育休法違反とされずとも、労働契約法16条違反と判断されれば解雇の効力は否定され、結果として労働者の救済は図られ得るにせよ、均等法及び育休法の各規定をもってしても、妊娠等を実質的な、あるいは、隠れた理由とする解雇に対して何らの歯止めにもならないとすれば、労働者はそうした解雇を争わざるを得ないことなどにより大きな負担を強いられることは避けられないからである。
 このようにみてくると、事業主において、外形上、妊娠等以外の解雇事由を主張しているが、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことを認識しており、あるいは、これを当然に認識すべき場合において、妊娠等と近接して解雇が行われたときは、均等法9条3項及び育休法10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができるから、このような解雇は、これらの各規定に反しており、少なくともその趣旨に反した違法なものと解するのが相当である。
 本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当であるとは認められず無効である。また、既に判断した解雇に至る経緯からすれば、Y(の担当者)は、本件解雇は妊娠等に近接して行われており(Yが復職の申出に応じず、退職の合意が不成立となった挙句、解雇したという経緯からすれば、育休終了後8か月が経過していても時間的に近接しているとの評価を妨げない。)、かつ、客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当であるとは認められないことを、少なくとも当然に認識するべきであったとみることができるから、均等法9条3項及び育休法10条に違反し、少なくともその趣旨に反したものであって、この意味からも本件解雇は無効というべきである。