全 情 報

ID番号 09271
事件名 割増賃金等支払請求事件
いわゆる事件名 結婚式場運営会社A事件
争点 固定残業代の有効性
事案概要 (1) 本件は、被告(結婚式場運営会社A)の従業員であった原告が、被告に対し、職能手当が定額残業代であるとする特約は無効などとして法内残業代、時間外割増賃金等の支払を求める事案である。
(2) 判決は、特約は公序良俗に反し無効であるとして、法内残業代、時間外割増賃金等を命じた。
参照法条 労働基準法37条
体系項目 賃金 (民事)/割増賃金/(6) 固定残業給
裁判年月日 平成29年4月13日
裁判所名 水戸地土浦支
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(ワ)320号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 判例時報2434号90頁
労働判例1204号51頁
審級関係 控訴
評釈論文 國武英生・季刊労働法268号202~213頁2020年3月
判決理由 〔賃金 (民事)/割増賃金/(6) 固定残業給〕 (1)本件特約などによれば、職能手当は残業代の支払に充てられるものと取り扱われており、その部分と基本給とは明確に区分することができる。また、本件特約には、職能手当相当額と労働基準法所定の割増賃金との差額精算の合意が存在する。
(2)しかし、本件特約の職能手当9万4000円は、被告の主張する基礎時給863円の約109時間分にも当たり、本件特約は原告の勤務体系とはかけ離れたものである。また、被告は、定時より後に業務が行われているにもかかわらず、タイムカードによる従業員の出退勤管理を行っておらず、従業員に残業代を支給したことがないばかりか、これを計算したこともない。しかも、被告は、原告の勤務体系において不可避的に発生するもの以外の時間外労働は発生しないと主張している。
 このような事情によれば、差額精算の合意は形ばかりのものにすぎず、本件特約の実態は、被告が実際にはおよそ現出し得ない長時間労働を仮定した上で、残業代の支払義務を回避し、従業員に対する労働時間管理の責任を放棄するための方便であり、労使の公平の見地から許されないものといわざるを得ない。
 したがって、本件特約は公序良俗に反し無効であり、原告の残業代の計算における基礎賃金は、基本給と職能手当の合計である24万4000円と認めるべきである(すなわち、定額残業代により残業代が支払われたとは認められない。)。