全 情 報

ID番号 09273
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 洛陽交運事件
争点 割増賃金の算定基礎
事案概要 (1) 本件は、被告(洛陽交運株式会社)の従業員であるタクシー乗務員の原告が、被告に対し、①平成25年3月22日から平成28年2月19日までの時間外・深夜早朝勤務手当(以下「時間外等賃金」という。)等の支払、②労働基準法114条に基づく付加金等の支払を求める事案である。
(2)判決は、割増賃金の計算方法が通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条所定の時間外・深夜割増賃金に当たる部分とを明確に判別することができない定めとなっていることなどから割増賃金の支払を命ずるとともに、法定で支払うべき割増賃金額が割増賃金部分として支払っていた賃金よりも多くなる場合に差額を支給する仕組みを実際にとっていなかったとして、未払の時間外割増賃金の一部について付加金の支払を命じた。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法114条
体系項目 賃金 (民事)/割増賃金/(2) 割増賃金の算定基礎・各種手当
裁判年月日 平成29年6月29日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(ワ)2625号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1212号38頁
労働経済判例速報2384号12頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔賃金 (民事)/割増賃金/(2) 割増賃金の算定基礎・各種手当〕
(1)A期間(平成25年4月度から平成26年11月度まで)においては、「基準内賃金」を「本給」と「年金手当」とした上で、「深夜勤務手当及び時間外勤務手当」(以下「深夜・時間外勤務手当」という。)として、「法定計算(「基準内賃金」に基づき労働基準法及び同法施行規則所定の方法に従い時間外等割増賃金を算定することを意味する。)による。法定計算による金額が次に計算した金額を下廻るときに限って、次の金額を支給する。」として、「基準外手当Ⅰ」と「基準外手当Ⅱ」(以下、併せて「基準外手当Ⅰ・Ⅱ」という。)が挙げられ、それら手当の額は月間運送収入の金額に応じた割合により、歩合的に算出されることとされている。このような定めからすると、深夜・時間外勤務手当の定めは、月間運送収入が少額の場合でも、実労働時間に基づく法定計算額の支払を保障するとともに、月間運送収入が多額の場合には、法定計算額を超える歩合額を支払う趣旨であるということができる。
深夜・時間外勤務手当のうち法定計算額を超過する部分は、月間運送収入額が多額の場合に、法定計算額に加えて支払われるものであり、しかもその歩合的計算は全労働に基づく月間運送収入額を基礎とするものであるから、通常の労働時間の賃金に当たる部分を含んでいるというべきである。そして、深夜・時間外勤務手当は、それらを区別せずに支払うものであるから、通常の労働時間の賃金に当たる部分と37条所定の時間外・深夜割増賃金に当たる部分とを明確に判別することができない定めになっているというべきである。
 また、そもそも、被告では、法定計算額との金額の大小いかんにかかわらず、基準外手当Ⅰ・Ⅱの額のみをその名目で支払っていたのであるから、被告が深夜・時間外勤務手当を支払うにあたって、法定計算額部分と超過部分を区別して支払っていたともいえない。
 したがって、基準外手当Ⅰ・Ⅱの支払をもって、37条所定の時間外・深夜割増賃金の支払と認めることはできず、その全額が割増賃金の算定基礎となるというべきである。
(2)B期間(平成26年12月度以降)においては、「基準内賃金」を「本給」とした上で、「基準外賃金」として「深夜・時間外勤務手当」とされ、「法定計算による。法定計算による時間外勤務手当および深夜勤務手当の合計額が下記計算合計額を下回るときに限り、下記金額を基準外賃金として支給する。」として、「基準外1」、「基準外2」、「基準外等手当(「基準外1」、「基準外2」、「調整給」、「1車2人制乗務手当」、「営業手当」をいう。)」、「祝日手当」、「その他手当」が挙げられ、そのうち基準外等手当の額は月間運送収入の金額に応じて、歩合的に又は定額で算出されることとされている。また、「その他手当」は、「上記賃金規定による基準外賃金合計額(休日出勤手当を含む)が、法定計算による基準外賃金合計額に対して不足する場合は、その不足額を補填して支給する。」とされている。「その他手当」が支払われる場合には、基準外等手当と休日出勤手当とその他手当を合算した額が法定計算額であることが明確にされているといえ、その支払の全部が労働基準法37条所定の時間外・深夜割増賃金の支払である趣旨が明確にされているといえ、「その他手当」が支払われる場合には、基準外等手当及びその他手当は割増賃金の算定基礎とならないが、「その他手当」が支払われない場合には、基準外等手当は割増賃金の算定基礎となると認めるのが相当である。
(4)被告は、A期間においては、法定計算額が基準外賃金等による額を上回る場合に差額を支給する仕組みを実際にとらず、法定計算額との大小いかんにかかわらず、漫然と基準外賃金等の額のみを支払っていたのであるから、このような法定計算額の支払の確保に配慮しない態度からすると、同期間については、未払の時間外割増賃金と同額の付加金の支払を命じるのが相当である。他方、B期間においては、法定計算額の支払を確保するようシステムを改めたことからすると、付加金の支払を命じるのは相当でないというべきである。