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ID番号 09276
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 井関松山ファクトリー事件
争点 無期契約労働者と有期労働者との間の手当差額の不合理性が問われた事案
事案概要 (1)農業用機械器具の製造及び販売等を事業目的とする被告Yとの間で期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結して就労している従業員(有期契約労働者)である原告Xらが、Yと期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している従業員(無期契約労働者)との間に、賞与、物価手当(本件手当等)の支給に関して不合理な相違が存在すると主張して、Yに対し、〈1〉当該不合理な労働条件の定めは労働契約法20条により無効であり、原告らには無期契約労働者に関する就業規則等の規定が適用されることになるとして、当該就業規則等の規定が適用される労働契約上の地位に在ることの確認、〈2〉本件手当等については、主位的に、同条の効力により原告らに当該就業規則等の規定が適用されることを前提とした労働契約に基づく賃金請求として、予備的に、不法行為に基づく損害賠償請求として、実際に支給された賃金との差額及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2)原判決は、物価手当については労働契約法20条に違反するとして不合理性を認めたが、賞与については同条に違反せず、不合理ではないとした。これに対し、一審原告、一審被告とも控訴したが、判決は、一審原告、一審被告のいずれの控訴も棄却した。
参照法条 労働契約法20条
体系項目 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/(14)短時間・有期雇用労働者と均等待遇
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 令和1年7月8日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ネ)144号
裁判結果 各控訴棄却、追加請求一部認容、一部棄却
出典 労働判例1208号38頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 岡正俊・経営法曹205号96~100頁2020年9月
判決理由 〔労基法の基本原則(民事)/均等待遇/(14)短時間・有期雇用労働者と均等待遇〕
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償〕
(1)これらの事情(賞与の額につき少なくとも正社員個人(無期契約労働者)の業績(一審被告の業績に対する貢献)を中心として支給するものとまではいい難く、労務の対価の後払いの性格や上記のような人事施策上の目的を踏まえた従業員の意欲向上策等の性格を有していること)は、いずれも労働契約法20条所定の「その他の事情」として考慮されるべき事柄であることはいうまでもなく、無期契約労働者と有期契約労働者とでは職務内容等の相違もみられること、また、有期契約労働者についても、規程はないものの、相当額の賞与(上記の支給実績によれば、無期契約労働者の賞与の約4分の1程度の額)を支給することとしていること、一審被告の無期契約労働者は基本的に中途採用制度により採用されており、無期契約労働者と有期契約労働者の地位は常に固定しているものではなく、一定の流動性が認められるなど、有期契約労働者に対する人事政策上の配慮をしていることも認められることからすると、有期契約労働者に対しては、無期契約労働者と同額の賞与を支給するものとはしないとした一審被告の経営判断には相応の合理性を認めることができる。
(2)物価手当の支給の趣旨は、年齢に応じて増加する生活費の補助にあって、年齢に応じた支給基準により一定額が支給されるものとされており、職務の内容の差異等に基づくものとは解し難いこと、また、一審被告には、賞与と異なり、物価手当の支給の有無及び支給額の多寡について格段の裁量もないことに照らすと、物価手当の支給条件の差違について、所論の人事政策上の配慮等の必要性を認めるに足りないというべきである。以上からすると、一審被告の主張を踏まえても、少なくとも前記認定説示に照らして、物価手当の不支給の不合理性を否定し得るに足りるものとは解し難い。