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ID番号 09283
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 協同組合つばさほか事件
争点 技能実習以外の作業に係る賃金の支払い
事案概要 (1) 技能実習実施機関であり大葉の栽培を営む被告Y1は、監理団体である被告協同組合つばさ(被告Y3)を介して、女性の技能実習生である原告X1との間で雇用契約を締結していたところ、原告X1は〈1〉請負作業の形式となっている実習計画外の大葉を束ねる作業(以下「大葉巻き作業」という。)に係る未払の残業代等の支払、〈2〉被告Y1の責めに帰すべき事由により原告X1の労務提供が不能になったとして、雇用契約に基づき、雇用期間の満了日までの各月の賃金等の支払〈3〉被告Y1 の被用者である被告Y2(被告Y1の父)から原告X1が受けたセクハラについてY3に対応を求めたにもかかわらず何らの措置もとらなかったなどとして、被告Y2、被告Y1、被告Y3に対して連帯して慰謝料等の支払を求め、
 原告X2(被告Y3が監理する農家の技能実習生の管理業務などを担当していた被告Y3の労働者)は、解雇が無効であるとして、被告Y3に対し、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、雇用契約に基づき、解雇日以後本判決確定の日までの各月分の賃金等の支払を求める事案である。
(3)判決は、原告X1に係る未払い賃金等の請求を認め、その他の原告X1、X2の請求はいずれも棄却した。
参照法条 労働基準法24条
労働契約法16条
体系項目 賃金(民事)/賃金請求権の発生/(1) 賃金請求権の発生時期・根拠
解雇 (民事)/3 解雇権の濫用
裁判年月日 平成30年11月9日
裁判所名 水戸地
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(ワ)390号
裁判結果 控訴(原告X2)
出典 労働判例1216号61頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 濱口桂一郎・ジュリスト1533号124~127頁2019年6月
判決理由 〔賃金(民事)/賃金請求権の発生/(1) 賃金請求権の発生時期・根拠〕
〔解雇 (民事)/3 解雇権の濫用〕
(1)原告X1の大葉巻き作業は、形式的には、1束2円の請負契約として合意されたものであるが、作業内容が原告X1の雇用契約において作業内容とされていた大葉の摘み取りと密接に関連しており、原告X1が大葉巻き作業をするに当たり諾否の自由が事実上制限された状態にあったものであって、作業時間についての裁量性も乏しいものであるなどの事情(大葉巻き作業は全て技能実習生が行っており、外注がされていたわけではない状況の下においては、技能実習生としては、少なくともその大部分はその日のうちに巻いておく必要があったものといえる。そして、技能実習生が大葉巻き作業を行うのは日中の作業が終わった午後5時頃からであり、大量の大葉を巻くときには作業が数時間掛かることもあるのであるから、被告Y1や被告Y2が常時大葉巻き作業を監督するなどしていたわけではなく、作業中に作業場から出入りすることも許容されていたとしても、作業時間についての裁量性は乏しいものであったと評価せざるを得ない。)を考慮すれば、被告Y1の指揮監督下で行われた作業であるというべきであって、雇用契約とは別の請負契約によるものではなく、雇用契約に基づいてされたものと認めるのが相当である。
(2)原告X1が雇用契約に基づく労務の提供ができなくなったのは、同原告がセクハラ被害を訴えたことがきっかけであるとしても、被告Y1と同原告の合意の下に雇用契約を終了させたことによるものと認められるから、原告X1が和解に応じなかったことを理由として被告Y1が原告X1から労務を提供する機会を奪ったことを前提とする原告X1の請求は理由がない。
(3)被告Y2が原告X1にセクハラ行為をしたことを認めることはできないというべきである。
(4)原告X2の警察への通報は、被告Y3の信用を毀損し、又はその業務を妨害するもので、原告X2が監査結果報告書を持ち出したことは被告Y3の業務を妨害するものであり、さらに、原告X2は無断外出をして職務命令に反した上、被告Y3に敵対的な感情を明らかにし、被告Y3の職場の秩序を乱したものであるから、解雇をするについての客観的に合理的な理由があると認められ、これらの言動によって被告Y3と原告X2との信頼関係は失われていたといわざるを得ず、個別的な指導等によっても原告X2が被告Y3の職務に戻ることは現実的に期待できなかったというべきであるから、解雇をしたことについては社会的通念上相当なものと認められる。以上によれば、本件解雇には客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるから、解雇権の濫用とはいえず、本件解雇は有効であり、原告の請求は理由がない。