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ID番号 09284
事件名 賃金等請求控訴事件
いわゆる事件名 協同組合つばさほか事件
争点 懲戒解雇の無効
事案概要 (1)技能実習実施機関の監理団体である被控訴人Y3(協同組合つばさ)において、被用者として農家の技能実習生の管理業務などを担当していた控訴人X2が、Y3から解雇の意思表示を受けたところ、本件解雇は懲戒解雇として行われたものであり、雇用契約に懲戒事由の定めはなく、Y3が就業規則を定めていないことから、懲戒権の根拠を欠くものとして解雇が無効であるとして、Y3に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金の支払を求めた事案である。原判決は、X2の訴えを棄却したため、控訴した事案である。
(2)判決は、X2の訴えを棄却した。
参照法条 労働契約法16条
体系項目 解雇 (民事)/3 解雇権の濫用
裁判年月日 令和1年5月8日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ネ)5416号
裁判結果 控訴棄却
出典 労働判例1216号52頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔解雇 (民事)/3 解雇権の濫用〕
(1)控訴人X2は、本件解雇は懲戒解雇として行われたものであり、雇用契約に懲戒事由の定めはなく、被控訴人Y3が就業規則を定めていないことから、懲戒権の根拠を欠くものとして無効である旨主張する。
 確かに、一般に、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ労働契約又は就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要するところ、前提事実のとおり、雇用契約に懲戒事由の定めはなく、Y3が就業規則を定めていないことから、X2が主張するとおり、Y3は、X2に対して懲戒解雇をすることはできない。
 しかしながら、このような場合に、仮に使用者が懲戒解雇と称する意思表示をしたとしても、使用者が懲戒権の行使としての解雇であることに固執せず、かつ、労働者の地位を不当に不安定にすることのない限り、使用者のした解雇の意思表示は、普通解雇の意思表示と解することができるというべきである(東京高等裁判所昭和61年5月29日判決労働関係民事裁判例集37巻2・3号257頁参照)。
 これを本件についてみるに、X2の離職票においてY3が重責解雇と記載したからといって直ちにこれが懲戒解雇を意味するものとはいえず、他に本件解雇について懲戒解雇であると明示されたことはなく、本件訴訟においても、Y3は、本件解雇は普通解雇であると主張しているのであるから、本件解雇を普通解雇と解するとしても、これによって労働者であるX2の地位を不当に不安定にするとは認め難い。
 したがって、本件解雇については、その余の点につき判断するまでもなく、普通解雇であると解するのが相当であって、これが懲戒解雇であることを前提として無効であるとする控訴人の主張は採用することができない。
(2)X2の警察への通報は、Y3の信用を毀損し、又はその業務を妨害するもので、X2が監査結果報告書を持ち出したことはY3の業務を妨害するものであり、さらに、X2は明示の職務命令に反して外出した上、Y3に敵対的な感情を明らかにし、Y3の職場の秩序を乱したものであって、その内容に照らせば、いずれもその程度は強いものというべきであるから、解雇をするについての客観的に合理的な理由があると認められ、これらの言動によってY3とX2との信頼関係は完全に失われていたといわざるを得ず、個別的な指導等によってもX2が被控訴人の職務に戻ることは現実的に期待できなかったというべきであるから、解雇をしたことについては社会通念上相当なものと認められる。以上によれば、本件解雇には客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるから、解雇権を濫用したものとはいえず、本件解雇は有効である。