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ID番号 09288
事件名 職務上義務不存在確認等請求事件
いわゆる事件名 大阪市(ひげ禁止)事件
争点 ひげを理由とする不当な人事評価
事案概要 (1) 本件は、被告(大阪市)が設置していた地方公営企業である大阪市交通局(以下「交通局」という。)の職員として地下鉄運転業務に従事していた原告らが、被告に対し、原告らは、ひげを剃って業務に従事する旨の被告の職務命令又は指導に従わなかったために、平成25年度及び平成26年度の各人事考課において低評価の査定を受けたが、上記職務命令等及び査定は、原告らの人格権としてのひげを生やす自由を侵害するものであって違法であるなどと主張して、〈1〉任用関係に基づく賞与請求として、上記査定を前提に支給された各賞与(勤勉手当)に係る本来支給されるべき適正な額との差額等、〈2〉国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づく損害賠償として、それぞれ慰謝料及び弁護士費用等の各支払を求める事案である。
(2) 判決は、〈1〉の賞与請求については棄却し、〈2〉については、国賠法上の違法があったとして、慰謝料(各20万円)、弁護士費用(各2万円)を認めた。
参照法条 国家賠償法1条
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/国等に対する損害賠償請求
裁判年月日 平成31年1月16日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成28年(行ウ)74号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1214号44頁
労働経済判例速報2372号17頁
労働法律旬報1941号53頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/国等に対する損害賠償請求〕
(1)原告らは、被告に対し、本件各考課が違法であるとして、本件各考課において、原告らが相対評価で第3区分に位置付けられることを前提に、賞与請求権に基づき勤勉手当の差額の支払を求めている。しかしながら、原告らについて、本件各考課において確定的に第3区分と査定された事実がない以上、原告らが主張するような同査定に基づく勤勉手当の請求権が具体的権利として発生していたということはできない。
 以上によれば、原告らの賞与請求権に基づく勤勉手当の請求については、本件各考課の適否の点について判断するまでもなく理由がないといわざるを得ない。
(2)
(3)原告らは、〈1〉交通局が本件身だしなみ基準を制定したこと、〈2〉上司らが本件身だしなみ基準に基づき業務上の指導等を行ったこと、〈3〉本件身だしなみ基準に基づき、ひげを剃らなかったことを理由に人事考課において低評価としたことが、いずれも国賠法上違法である旨主張する
〈1〉については、本件身だしなみ基準は、ひげに関し、「髭は伸ばさず綺麗に剃ること。(整えられた髭も不可)」と定めるとともに、本件通達では、本件身だしなみ基準を指導教育に用いること、繰り返しの指導に対して改善が見られない場合は人事考課への反映も行うことが記載されているものの、同基準が、職務上の命令として一切のひげを禁止するものであるとか、単にひげを生やしていることをもって人事上の不利益処分の対象としているものとまでは認められず、飽くまでも被告が主張するように、交通局の乗客サービスの理念を示し、職員の任意の協力を求める趣旨のものであると認めるのが相当である。本件身だしなみ基準については、一定の必要性及び合理性があると認められるのであって、同基準の制定それ自体が違法であるとまではいえない。 〈2〉については、H運輸長は、f乗務運輸長という上位の立場にあって、原告Bに対し、人事上の処分や退職を余儀なくされることまでを示唆して、ひげを剃るよう求めたことが認められ、H運輸長の発言については、身だしなみについて任意の協力を求める本件身だしなみ基準の趣旨を逸脱したものであるといわざるを得ない。したがって、H運輸長の同発言については、国賠法上違法であったと認めるのが相当である。
〈3〉については、原告らは、平成25年度の人事考課において、ひげを生やしていたことを主たる考慮事情として評価を受けたと認められるところ、D所長は、平成27年2月の時点でも、原告Aに対して、ひげを生やしていれば、人事考課において低評価とせざるを得ない旨示唆していたことに鑑みると、平成26年度の人事考課についても、原告らがひげを生やしていたことが、主要な減点要素として考慮されたものであると認めるのが相当である。そうすると、ひげを生やす自由の性質及び本件身だしなみ基準の位置付け、平成26年度人事考課シートの具体的な記載内容等を踏まえると、上記評価は、人事考課における使用者としての裁量権を逸脱・濫用するものであるといわざるを得ない。
(3)上記したとおり、平成25年度及び平成26年度に係る原告らに対する本件各考課は、いずれも裁量権を逸脱・濫用したものであると認められるところ、本件身だしなみ基準の趣旨目的、本件各考課の内容及びひげを生やすか否かは個人的自由に関する事項であることに鑑みると、本件各考課の内容については、原告らの人格的な利益を侵害するものであり、適正かつ公平に人事評価を受けることができなかったものであって、国賠法上違法であると評価するのが相当である。