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ID番号 09291
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 日本郵便(大阪)事件
争点 有期雇用労働者の不合理な待遇
事案概要 (1) 本件は、第一審被告(日本郵便株式会社)の時給制契約社員又は月給制契約社員として有期労働契約を締結して郵便局で郵便配達等の業務に従事している第一審原告ら(8人)が、第一審被告の正社員との間で、各労働条件(外務業務手当、郵便外務業務精通手当、年末年始勤務手当、早出勤務等手当、祝日給、夏期年末手当、住居手当、扶養手当、夏期冬期休暇、病気休暇)に相違があることは労働契約法20条に違反している、また、同法施行前は同一労働同一賃金の原則に反するもので公序良俗に反すると主張して、第一審被告に対し、(ア)第一審被告の社員給与規程及び社員就業規則のうち各労働条件に関する部分が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、(イ)第一審原告らに社員就業規則等のうち各労働条件に関する部分が適用された場合に支給されるべき各手当と同額、あるいは、同期間に第一審原告らに各手当と趣旨の類似する手当が支給されている場合はこれとの差額のうち、(a)同法施行前においては、不法行為に基づき同額の損害賠償、(b)同法施行後においては、①主位的に、同条の効力により一審原告らに正社員の各労働条件が適用されることを前提とした労働契約に基づき同額の支払、②予備的に、不法行為に基づき同額の損害賠償等の支払いを求めた事案である。
(2)原判決(平成30年2月21日 大阪地裁)は、第一審原告らの請求について、上記(ア)、(イ)(a)(b)①の主位的請求を棄却し、(イ)(b)②の予備的請求のうち、年末年始勤務手当、住居手当、扶養手当に係る相違は労働契約法20条施行後は不合理と認められるものに当たるとし、不法行為に基づく損害賠償を命じ、その余の請求を棄却した。これに対し、第1審被告、第1審原告らが控訴した。
(3) 判決は、年末年始勤務手当、祝日給、住居手当、夏期冬期休暇、病気休暇については不合理な相違があるとし不法行為に基づく損害賠償を命じ、扶養手当については不合理と認められないとした。また、その余の労働条件については不合理とは認められないとした。
参照法条 労働契約法20条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 不合理な待遇差
裁判年月日 平成31年1月24日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ネ)729号
裁判結果 原判決変更自判
出典 労働判例1197号5頁
労働経済判例速報2371号3頁
労働法律旬報1938号55頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 野川忍・法律時報91巻5号99~105頁2019年5月
河村学・季刊労働者の権利330号82~86頁2019年4月
沼田雅之・労働法律旬報1938号6~16頁2019年6月25日
河村学・労働法律旬報1938号24~28頁2019年6月25日
小西康之(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1536号114~117頁2019年9月
判決理由 〔労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 均等・均衡待遇〕
 判決は、以下のとおり年末年始勤務手当、祝日給、住居手当、夏期冬期休暇、病気休暇については不合理な相違があるとし不法行為に基づく損害賠償を命じ、扶養手当については不合理と認められないとした。また、その余の労働条件については不合理とは認められないとした。
ア 年末年始勤務手当については、相違が存在することは、直ちに不合理なものと評価することは相当ではないが、契約社員にあっても、有期労働契約を反復して更新し、契約期間を通算した期間が長期間(5年)に及んだ場合には、年末年始勤務手当を支給する趣旨・目的(年末年始が最繁忙期になるという郵便事業の特殊性から、多くの労働者が休日として過ごしているはずの年末年始の時期に業務に従事しなければならない正社員の労苦に報いる趣旨)との関係で正社員と契約社員との間に相違を設ける根拠は薄弱なものとならざるを得ないから、このような契約社員にも正社員に対して支給される年末年始勤務手当を一切支給しないという労働条件の相違は、もはや労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
イ 年始期間の勤務に対する祝日給については、第一審被告における契約社員と正社員との年始期間の特別休暇についての相違が存在することは、直ちに労契法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解されるから、これを反映した祝日給と祝日割増賃金との相違も、同条にいう不合理と認められるものには当たらない。もっとも、上記アで説示した通算契約期間が長期間(5年)に及んだ場合の労働条件の相違は不合理と認められるものに当たるとすることは、年始期間の祝日給又は祝日割増賃金の支給の有無にも当てはまるというべきである。
ウ 住居手当については、①その趣旨目的は、主として、配転に伴う住宅に係る費用負担の軽減という点にあると考えられること、②新一般職(正社員の一職種)は、契約社員と同様に、転居を伴う配転が予定されていないにもかかわらず、住居手当が支給されていること、?契約社員には、長期間の雇用が前提とされていないとはいえ、住居に係る費用負担の軽減という観点からは何らの手当等も支給されていないこと、以上の点に鑑みれば、住居手当には有為な人材の獲得、定着を図るといった人事上の施策、あるいは、福利厚生的な要素があること等を考慮したとしても、住居手当の支給についての新一般職と本件契約社員との労働条件の相違は、不合理なものであるといわざるを得ない。
エ 扶養手当については、契約社員は、長期雇用を前提とする基本給の補完といった扶養手当の性質及び支給の趣旨に沿わないし、契約社員についても家族構成や生活状況の変化によって生活費の負担増もあり得るが、基本的には転職等による収入増加で対応することが想定されている。そうすると、正社員と契約社員との間の扶養手当に関する相違は、不合理と認めることはできない。
オ 夏期冬期休暇については、夏期冬期休暇についても、長期雇用を前提とする正社員と原則として短期雇用を前提とする契約社員との間で、異なる制度や運用を採用すること自体は、相応の合理性があるというべきであり、正社員に対して付与される夏期冬期休暇が契約社員に対しては付与されないという相違が存在することは、直ちに不合理であると評価することはできない。もっとも、上記アで説示した通算契約期間が長期間(5年)に及んだ場合の労働条件の相違は不合理と認められるものに当たるとすることは、夏期冬期休暇にも当てはまるというべきである。
カ 病気休暇については、長期雇用を前提とする正社員と原則として短期雇用を前提とする契約社員との間で異なる制度や運用を採用すること自体は、相応の合理性があるというべきであり、第一審被告における契約社員と正社員との間で病気休暇の期間やその間有給とするか否かについての相違が存在することは、直ちに不合理であると評価することはできない。もっとも、上記アで説示した通算契約期間が長期間(5年)に及んだ場合の労働条件の相違は不合理と認められるものに当たるとすることは、病気休暇にも当てはまるというべきである。