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ID番号 09295
事件名 損害賠償等請求控訴事件
いわゆる事件名 メトロコマース事件
争点 有期雇用労働者の不合理な待遇
事案概要 (1) 本件は、第一審被告(株式会社メトロコマース)の契約社員Bとして有期労働契約を締結して東京地下鉄株式会社の駅構内の売店で販売業務に従事している第一審原告ら(4人)が、第一審被告の正社員のうち上記売店業務に従事している者と第一審原告らとの間で、各労働条件(本給及び資格手当、住宅手当、賞与、退職金、褒賞、早出残業手当)に相違があることは労働契約法20条又は公序良俗に違反していると主張して、第一審被告に対し、不法行為又は債務不履行に基づき、正社員であれば支給されたであろう賃金等と第一審原告らに支給された賃金等との差額に相当する損害賠償金等の支払を求めた事案である。
原判決(平成29年3月23日 東京地裁)は、第一審原告1人の請求のうち不法行為に基づく損害賠償請求の一部(早出残業手当)を認容したが、その余の請求及び他の第一審原告らの各請求をいずれも棄却した。これに対し、第一審被告、第一審原告らが控訴をした。
(2)判決は、本給及び資格手当、賞与については、不合理と認められないとしたが、住宅手当、退職金制度、褒賞、早出残業手当については不合理な相違があるとて、不法行為に基づく損害賠償を命じた。
参照法条 労働契約法20条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 不合理な待遇差
裁判年月日 平成31年2月20日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ネ)1842号
裁判結果 原判決変更
出典 労働判例1198号5頁
労働経済判例速報2373号3頁
労働法律旬報1938号69頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
D1-Law.com判例体系
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 野川忍・法律時報91巻5号99~105頁2019年5月
森戸英幸・ジュリスト1532号4~5頁2019年5月
今野久子・季刊労働者の権利330号93~103頁2019年4月
小林譲二・季刊労働法265号220~221頁2019年6月
沼田雅之・労働法律旬報1938号6~16頁2019年6月25日
井上幸夫・労働法律旬報1938号34~43頁2019年6月25日
原昌登(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1536号110~113頁2019年9月
平野剛・労働経済判例速報2392号25~34頁2019年11月10日
吉田肇・民商法雑誌155巻6号145~155頁2020年2月
判決理由 〔労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 不合理な待遇差〕
ア 住宅手当は、従業員が実際に住宅費を負担しているか否かを問わずに支給されることからすれば、職務内容等を離れて従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものであり、その手当の名称や扶養家族の有無によって異なる額が支給されることに照らせば、主として従業員の住宅費を中心とした生活費を補助する趣旨で支給されるものと解するのが相当であるところ、上記のような生活費補助の必要性は職務の内容等によって差異が生ずるものではない。勤務場所の変更によっても転居を伴うことが想定されていない契約社員Bと比較して正社員の住宅費が多額になり得るといった事情もない。したがって、住宅手当の相違は、不合理であると評価することができるから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
イ 一般に、退職金の法的性格については、賃金の後払い、功労報償など様々な性格があると解されるところ、このような性格を踏まえると、一般論として、長期雇用を前提とした無期契約労働者に対する福利厚生を手厚くし、有為な人材の確保・定着を図るなどの目的をもって無期契約労働者に対しては退職金制度を設ける一方、本来的に短期雇用を前提とした有期契約労働者に対しては退職金制度を設けないという制度設計をすること自体が、人事施策上一概に不合理であるということはできないが、少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金(退職金の上記のような複合的な性格を考慮しても、正社員と同一の基準に基づいて算定した額の少なくとも4分の1はこれに相当すると認められる。)すら一切支給しないことについては不合理といわざるを得ない。
ウ 褒賞については、褒賞要件は形骸化しており、業務の内容にかかわらず一定期間勤続した従業員に対してする褒賞ということになっているので、その限りでは正社員と契約社員Bとで変わりはなく、契約社員Bについても、長期間勤続することが少なくない。そのため、上記の労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
エ 割増賃金の支払いの趣旨は、時間外労働が通常の労働時間又は労働日に付加された特別の労働であるから、それに対しては使用者に一定額の補償をさせるのが相当であるとともに、その経済的負担を課すことによって時間外労働を抑制しようとする点にあると解される。時間外労働の抑制という観点から有期契約労働者と無期契約労働者とで割増率に相違を設けるべき理由はなく、そのことは使用者が法定の割増率を上回る割増率による割増賃金を支払う場合にも同様というべきであるなどから、早出残業手当の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。