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ID番号 09297
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 ダイヤモンドほか事件
争点 安全配慮義務違反
事案概要 (1) 被告会社が経営していたホストクラブEのホストであった亡Aが、勤務中、急激かつ大量の飲酒をさせられたため、急性アルコール中毒により死亡したとして、亡Aの父母である原告らが、〈1〉被告会社に対しては、本件ホストクラブの他のホストが亡Aに飲酒を強要した上、同人が酩酊して危険な状態になったにもかかわらず、救護すべき義務を怠ったとして、主位的に使用者責任、予備的に債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、〈2〉被告会社の取締役Bらに対しては、主位的に、被告会社の取締役としての職務である従業員の安全配慮を怠ったなどとして、そのことにつき悪意又は重過失があったとして、会社法429条1項に基づき、予備的に、故意又は過失により従業員に対する安全配慮義務を怠ったとして、不法行為に基づき、それぞれ損害賠償請求をするものである。
(2) 判決は、被告会社に対して、不法行為に基づく損害賠償金7189万6602円(原告各自3694万8301円)及びこれに対する遅延損害金の支払いを命じ、取締役らに対する会社法429条1項や安全配慮義務違反等に基づく損害賠償は否定した。
参照法条 会社法429条1項
労働契約法5条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 平成31年2月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(ワ)7371号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1205号81頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 確定
評釈論文 山口浩一郎(判例実務研究会)・労働法令通信2542号32~33頁2020年1月8日
判決理由 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
(1)事故当日、本件ホストクラブでは、主任のHだけでなく、店長や金銭管理及びホストによる接客体制の管理を行っていたキャッシャーも仕事をしていたのであり、店内において異常が発生した場合には、これらの者が対応することとなっていたにもかかわらず、Hらによる飲酒の強要に起因する本件事故が起きたことからすると、被告会社が、本件事故当日に被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとか、相当の注意をしても損害が生ずべきであったとは到底認められない。よって、被告会社は、本件事故の発生につき、使用者責任を負う。
(2)本件ホストクラブにおいては、定期的にミーティングが開催され、過度な飲酒をしないよう指導を行い、接客ができないほど過度な飲酒をしているときは、店に出ないで帰宅するよう注意していたこと、本件事故発生以前に、ホスト同士の飲酒の強要があったことはうかがわれないこと、本件ホストクラブにおいては、店長、主任及びキャッシャーは、店内において異常が発生した場合には対応することとなっていたこと、本件事故当時、口から泡を吹いて倒れている亡Aを発見した他のホストが救命活動を行い、発見から30分余りで救急要請がされたことからすれば、安全配慮義務に基づく過度の飲酒に対する十分な監視体制及び救護体制の構築、本件ホストクラブの従業員に対する指導等について懈怠があったとは認められず、指導を行うべき主任のHが、他のホストともに亡Aへの暴力を伴う飲酒強要に及んだ本件事故は、取締役の業務執行に係る安全配慮義務の範ちゅうを超える突発的な出来事といわざるを得ない。以上によれば、被告取締役に職務上負っていた安全配慮義務の懈怠があったとはいえず、会社法429条1項に基づく責任を負うとはいえない。
 また、被告取締役Bは、本件ホストクラブの従業員に対する関係で、生命身体に対する安全配慮義務を負うというべきであるが、亡Aが通常の業務において想定される程度を超えて、他のホストから過度の飲酒を強要され、本件事故に至ったことを予見し得たとは認められない。したがって、被告取締役Bには、結果を予見及び回避する義務の違反があったとはいえず、不法行為責任を負うとはいえない。
(3) 他の被告取締役も、本件事故の発生について予見可能性があったとはいえず、過度の飲酒に対する十分な監視体制及び救護体制の構築、本件ホストクラブの従業員に対する指導等についての安全配慮義務違反も認められないから、不法行為責任を負うとはいえない。