全 情 報

ID番号 09303
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 東芝総合人材開発事件
争点 解雇権の濫用
事案概要 (1) 企業内教育研修に関する企画・立案及びコンサルティング等を目的とする一審被告Y(東芝総合人材開発株式会社)の技能訓練校(Bスクール)において、一審原告Xは、各教育訓練を担当する講師との日程調整、年間の授業のコマ割り及び行事日程案の作成、年間スケジュール作成、日々の訓練や行事の運営のサポート業務、一般教養関係の科目についての講師業務を行っていたが、同スクールの顧客に対し、Xの同スクールに対する不満を暴露し、批判する内容のメールを送信したことを原因として行われた業務指示(懲罰目的又はいじめ・嫌がらせ目的のマーシャリング作業(部品仕訳作業)への従事)に従わなかったことなどを理由にされた解雇は無効である等として、Yに対し、〈1〉地位確認、〈2〉バックペイとして、平成28年2月から、毎月末日限り、31万3808円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金、〈3〉賞与として、平成28年7月から、毎年7月及び12月の各月末日限り、48万1000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 原判決は、本件訴えのうち、本判決確定の日の翌日以降に支払期日が到来する給与及び賞与に係る部分は不適法であるとして却下し、Xのその余の請求は、いずれも理由がないとして棄却したため、Xが控訴した。
(3)判決は、Xの控訴を棄却した。
参照法条 労働契約法15条
労働契約法16条
体系項目 解雇 (民事)/3 解雇権の濫用
懲戒・懲戒解雇/3 懲戒権の濫用
裁判年月日 令和1年10月2日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成31年(ネ)1973号
裁判結果 控訴棄却
出典 労働判例1219号21頁
審級関係 上告受理申立て
評釈論文
判決理由 〔解雇 (民事)/3 解雇権の濫用〕〔懲戒・懲戒解雇/3 懲戒権の濫用〕
(1)Xが担当を命じられたマーシャリング作業については、Xの従前の担当業務と比較すると、難易度が著しく低い単純作業であると認められる。他方において、マーシャリング作業の従前の担当者(実技担当者)に多忙による業務軽減の必要性があったことを認めるに足りる証拠はない。しかしながら、問題行為を起こした従業員が、問題行為の性質上、従前の担当業務を担当させられない場合において、業務軽減の必要のない他の従業員の担当業務の一部を担当させることを、その一事をもって懲罰目的であるとか、難易度が低く業務上必要のない過少な行為を行わせるものとしてパワーハラスメントに該当するとかいうには、無理がある。本件においては、Xに、組織の基本(上司の指示に従うこと、上司から指示された業務を行う義務があること)を体得させるという業務上の必要があった。十分な反省と改善がみられるまで、外部との接触のない業務であるマーシャリング作業を行わせること(本件業務指示)は、誠にやむを得ないものであったというほかはない。このことを業務上必要のないパワーハラスメントが行われたと評価するには、無理がある。
(2)本件業務指示が、Xを退職に追い込む目的で発せられたことを認めるに足りる証拠はない。Yは、本件メール送付行為があったことから、直ちに性急に解雇に踏み切ったものではない。Xは、反省と改善の機会を十分に与えられている。すなわち、Yは、Xが本件業務指示に従わず、改善が見られないことから、まず、軽い懲戒処分(譴責)を発している。通常であれば、譴責とはいえ、正式な懲戒処分が発せられたのであるから、本件業務指示に従わなければより重い懲戒処分(懲戒解雇を含む。)が発せられることも予測可能である。出勤停止処分が発せられた場合についても、同様に、更なる懲戒処分が予測可能である。通常であれば、譴責や出勤停止処分の後のXには、何らかの改善がみられるはずであり、相応の改善がみられれば、Yも解雇には踏み切れなかったはずである。しかしながら、Xは、譴責処分を受けても、その3箇月半後により重い懲戒処分(出勤停止処分)を受けても、どちらの懲戒処分後も、自省的な反省と改善がみられず、上司や元上司等に対する他罰的言動を繰り返した。そうすると、出勤停止処分の約3箇月半後に本件解雇に至ったという流れは、X本人以外の誰にも止めようがなかったものというほかはないところである。
 したがって、Xの主張を採用するには無理があるというほかはなく、本件解雇は有効である。