全 情 報

ID番号 09305
事件名 解雇無効確認等請求事件(1112号)、損害賠償等請求反訴事件(1956号)事件
いわゆる事件名 学校法人明海大学事件
争点 懲戒解雇の有効性
事案概要 (1) 被告(学校法人Y大学)は、Y大学B学部の教授の職にあった原告が、その「自宅」が、H町宅から妻子が転居したI宅となっているにもかかわらず、通勤経路がH町ルートからIルートとなった旨の届出をせず、故意をもって、H町ルートによる通勤手当とIルートによる自動車通勤手当の差額を不正に受給したとして、これは被告に対する詐欺罪(刑法246条)に当たり就業規則64条7号の「刑事犯罪にあたる行為をしたとき」との懲戒事由に該当するとして、懲戒解雇し、退職金も不支給とした。
(2)本訴として、原告が、被告に対し、本件懲戒解雇の無効確認、雇用契約に基づく退職金請求として本件懲戒解雇がなければ得られたであろう退職金等並びに不法行為に基づく慰謝料等の支払を求め、反訴として、被告が、原告に対し、自動車通勤手当を不正に受給したなどとして、不正受給に係る金銭等の支払を求める事案である。
(3)判決は、懲戒解雇の無効確認の訴えは却下したが、懲戒解雇は懲戒事由が存在しないため権利の濫用で無効とし、被告に対し退職金及び慰謝料の支払いを命じ、被告の反訴は棄却した。
参照法条 労働契約法15条
労働契約法16条
体系項目 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/(3) 職務上の不正行為
裁判年月日 平成31年3月27日
裁判所名 東京地立川支
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)1112号/平成29年(ワ)1956号
裁判結果 一部却下、一部棄却(1112号)、棄却(1956号)
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/(3) 職務上の不正行為〕
(1)本件懲戒解雇の無効確認の訴えは、原告は既に定年退職しているから、過去の法律関係の確認を求めるものである。過去の法律関係の確認については、その基本となる法律関係を確定することが紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合に限り確認の利益が肯定されると解するのが相当であるが、本件はその場合に当たるものとはいえないため、原告の本件無効確認の訴えは、確認の利益を欠き不適法であるから、却下を免れない。
(2)被告においては、「自宅」と通勤届等記載の住所地、住民票記載の住所地は同義のものとして解釈、運用されてきており、原告の住民票記載の住所地は、現在に至るまでH町宅であり、通勤届等にもその住所地を記載していたことからすれば、その「自宅」はH町であったということができる。加え、原告のH町宅での生活実態があること、通勤実態についてみても、授業のある日に限っても週全体でみれば、原告はI宅を経由してH町宅とEキャンパスとの間を通勤しているとみることもできる上、原告は授業以外の業務のために授業のない日にH町宅からEキャンパスまで出勤することもあったことを併せ考慮すれば、原告が、H町ルートによる通勤手当を受給したことが明らかに不当ということはできない。
 したがって、原告の上記受給行為は、就業規則64条7号の「刑事犯罪にあたる行為をしたとき」との懲戒事由及び同条14号の「その他前各号に準ずる不都合な行為のあったとき」との懲戒事由に該当するものとはいえず、原告に被告の主張する懲戒事由は存しない。よって、本件懲戒解雇は、懲戒事由が存しないから、懲戒権の濫用の有無につき判断するまでもなく、無効である。
(3)懲戒解雇は無効であるから、原告は、被告に対し、雇用契約に基づく退職金請求権を有する。
(4)被告は原告に対して懲戒事由がないにもかかわらず、本件懲戒解雇を行ったものであるところ、被告は、支給要領及び支給細則について、これまでの被告の運用とは異なる独自の解釈に基づき、原告の説明や弁解を傾聴することなく、これらを十分に検討せずに、原告が自動車通勤手当を意図的に不正受給したものといわば一方的に決めつけ、本件懲戒解雇に及んだものと評価せざるを得ないのであって、被告が原告に対してした本件懲戒解雇は、不法行為法上も違法とのそしりを免れず、被告には少なくとも過失が認められ、原告に対する不法行為が成立する。原告は本件懲戒解雇により、名誉及び信用を毀損され、定年退職までの間の賃金及び退職金の支払によっては填補できない特段の精神的苦痛を被ったものといえ、これに対する慰謝料は80万円とするのが相当である。