全 情 報

ID番号 09310
事件名 労働安全衛生法違反、業務上過失致死被告事件
いわゆる事件名 労働安全衛生法違反事件ほか
争点 危険防止措置について権限授与行為等
事案概要 (1) 被告人Y2は、代表取締役である夫のAと共謀の上、被告人有限会社Y1の業務に関し、平成27年7月18日、同市のB株式会社から賃借した倉庫X棟2階棚上作業床において、株式会社Cから被告人有限会社Y1に派遣された労働者D(当時46歳)に、台車を使用して商品の運搬作業をさせるに当たり、同作業床は2階棚下床面からの高さが約2.76メートルであった上、同棚上作業床には開口部があり、同開口部からの墜落により労働者に危険を及ぼすおそれがあり、かつ、同開口部に手すり等を設けることが作業の性質上困難ではなかったのに、同開口部に手すり等を設けず、もって労働者が墜落するおそれのある場所に係る危険を防止するため必要な措置を講じなかった事案である。
(2) 判決は、被告人有限会社Y1を罰金30万円に、被告人Y2を罰金40万円に処するとした。
参照法条 労働安全衛生法21条2項(労働安全衛生規則591条1項)
体系項目 労働安全衛生法/危険健康障害防止/(1) 危険防止
裁判年月日 平成31年4月24日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(わ)62号
裁判結果 有罪
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働安全衛生法/危険健康障害防止/(1) 危険防止〕
(1)弁護人は被告人有限会社Y1の代表取締役ではない被告人Y2に対して、労働安全衛生法122条所定の両罰規定を根拠に同法上の義務違反に係る刑事責任を負わせるには、危険防止措置義務違反について権限授与行為等が明示的になされなければならないと主張するが、安全衛生管理を実質的に行う地位にあることを摘示している以上、明示的な権限授与行為等の事実の摘示を欠いたからといって、訴因に摘示すべき事項を欠いているとはいえず、本件公訴事実が他の犯罪事実と識別できないともいえない。
(2)弁護人は、共謀の時期・場所・内容が明らかにされておらず、本件公訴事実が訴因として不特定である旨主張する。しかしながら、共謀があったことを訴因として掲げるには、「共謀の上」程度の記載で足り、必ずしも謀議の行われた時期、場所、又は内容の詳細等を具体的に記載する必要はない(最高裁大法廷判決昭和33年5月28日・刑集12巻8号1718頁参照)。また、本件公訴事実では、被告人有限会社Y1の取締役である被告人Y2が、被告人有限会社Y1の代表取締役であるAと共に労働者の指揮監督・安全衛生管理を行っていたものと摘示されていることから、検察官は、被告人Y2及びAが、危険防止措置義務を負うような事業を共同して行っているという事実を捉えて、両者間に共謀があった旨主張しているものと解される。
(3)弁護人は、労働者が墜落するおそれのある場所に係る危険を防止するために採るべき安全措置の内容が明らかにされていないから、本件公訴事実が訴因として不特定である旨主張する。しかしながら、採るべき措置の例示として、本件公訴事実には「手すり等を設け」ることが掲げられており、本件公訴事実が、訴因に摘示すべき事項を欠いているとはいえず、他の犯罪事実と識別できないともいえない。
(4)弁護人は、労働安全衛生規則543条が、「事業者は、機械間又はこれと他の設備との間に設ける通路については、幅80センチメートル以上のものとしなければならない。」と規定しているところ、これを準用して同規則519条1項を限定的に解釈すべきである、すなわち、開口部から80センチメートル以上離れた場所での作業を想定している場合には、開口部に危険防止措置を講じる義務が発生しないなどと主張する。しかしながら、労働安全衛生規則543条が上記の幅を設けることを規定した趣旨は、機械等を使用して作業することに関連する危険に鑑み、機械等から一定の距離を置くことができる労働環境を整備することで労働者の安全を図ることにあると解される。成人の労働者にとって80センチメートル程度の距離が確保されていれば一定の危険を自分で回避できるからであると解釈するのは弁護人の独自の見解にすぎず、弁護人の上記主張に理由はない。
(5)弁護人は、本件開口部及び本件問題部分に設置すべきであった差込み式の安全柵の各管理権限は、被告会社ではなくBにあるのであるから、被告会社に危険防止措置義務違反の刑事責任を負わせることができない旨主張する。しかしながら、本件開口部は、被告人有限会社Y1が、事業者として使用する労働者に対して業務を行わせていた2階棚上にあるのであるから、被告人有限会社Y1において労働面の安全衛生管理をする立場にある者は、本件開口部に係る危険防止措置義務を負うというべきである。弁護人が主張する点は、いずれも被告会社とBとの間の責任の分担に関するものであるところ、Bが本件開口部に関して何らかの責任を負うか否かは措くとして、そのことが、被告会社が事業者として負うべき労働者に対する責任を消滅させるものではない(なお、弁護人の指摘するように仮に被告人有限会社Y1に本件開口部の管理権限がなかったのだとしても、被告人有限会社Y1が、Bに対して、本件開口部に係る転落防止策を講じるよう申し入れることも考えられるところであり、本件全証拠によっても、そのような申入れさえできなかったものとは認められない。)。
(6)被告人Y2は、被告会社の代表取締役Aと共に、被告会社の事業について、共同して、その労働者の指揮監督・安全管理を行うべき立場にあったといえるから、本件開口部について、共同して、危険防止措置義務を負っていたというべきである。したがって、被告人Y2とAとの間には、労働安全衛生法21条2項違反の罪について、共謀があったものと認められる。