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ID番号 09311
事件名 遺族補償給付変更処分取消等請求事件
いわゆる事件名 国・茂原労働基準監督署長(株式会社まつり)事件
争点 給付基礎日額の算定
事案概要 (1) 本件は、株式会社まつりの和洋食レストラン「うどんとすし祭」の店長として勤務していた亡夫が過重労働により不整脈で死亡したとする原告が、茂原労働基準監督署長(以下「監督署長」という。)に対し、労働者災害補償保険法に基づく遺族給付及び葬祭給付の各支給を請求したところ、監督署長からいずれも給付基礎日額を1万3330円として算出した給付額を支給する旨の処分を受けた。これに対し、原告は、固定残業代が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていたということはできないにもかかわらず、これを割増賃金の基礎賃金に算入していないことなどから、その給付基礎日額について誤りがある旨主張して、被告国・茂原労働基準監督署長に対し本件各処分の取消しを求める事案である。
(2) 判決は、本件固定残業代については通常の労働時間の賃金であるとして、これを割増賃金の基礎に算入せずに算出した給付基礎日額の処分を取り消した。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法12条
労働者災害補償保険法7条
労働者災害補償保険法8条
労働者災害補償保険法12条の8
体系項目 賃金(民事)/割増賃金/(6)固定残業給
労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/(11)給付基礎日額・平均賃金
裁判年月日 平成31年4月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(行ウ)284号
裁判結果 認容
出典 判例タイムズ1468号153頁
労働判例1207号56頁
審級関係 確定
評釈論文 横木雅俊・経営法曹204号77~88頁2020年6月
判決理由 〔賃金(民事)/割増賃金/(6)固定残業給〕
〔労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/(11)給付基礎日額・平均賃金〕
(1)被告は、「超過手当」、「深夜業手当」の名称で支払われていた固定残業代は、社会通念上、超過手当が時間外労働に対する手当、深夜業手当が深夜労働に対する手当と認識することができること、賃金台帳及び給料明細書に基本給及び役職手当とは別に本件残業代が記載されていること、本件会社は被災者に対して同給料明細書を交付していること、本件固定残業代が現に支払われていたことからすれば、本件会社及び被災者は、本件固定残業代が時間外労働等の対価として支払われていたことをそれぞれ認識していた旨主張する。確かに、被告主張の事実からすれば、本件会社が本件固定残業代を時間外労働等の対価として支払う旨の認識があったことを推認できなくはないし、他方で、被災者もそのような推測をすることが不可能であったとはいえない。しかしながら、被災者が、雇用契約書も就業規則もなく、しかも、本件雇用契約締結時において、本件会社から本件固定残業代についての説明がされたことは窺われないような状況において、わずか4か月程度の給与明細書の交付と本件固定残業代の受領のみをもって、本件雇用契約の締結に当たり、本件固定残業代が時間外労働等に対する対価として支払われることについてその内容を理解した上で、応諾するに至ったことを推認することまではできず、その他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(2)超過手当においてあらかじめ想定される時間外労働時間数(約67時間)と被災者の実際の時間外労働時間数(約123時間ないし約141時間)から窺われる勤務状況との間に約2倍もの大きな乖離が見られるところであり、この点はかえって本件雇用契約において本件固定残業代が時間外労働等に対する対価として支払われていないことを推認させるものである。
 以上の事情を総合的に考慮すると、本件雇用契約において本件固定残業代が時間外労働等に対する対価として支払われているものとはされておらず、ひいては本件固定残業代が本件雇用契約の内容となってはいないこととなる。
(3)したがって、平均賃金の算定基礎においては、まず、本件固定残業代を通常の労働時間の賃金として算入し、さらに、本件固定残業代を基礎賃金に含めた上で算出した割増賃金をも算入することになる。しかるに、監督署長は、これらの算入処理をすることなく、平均賃金及び給付基礎日額を算出し、これを前提として本件各処分をしている。よって、本件各処分には、平均賃金、ひいては給付基礎日額の算定の誤りがあるから違法であって取消しを免れない。