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ID番号 09318
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 フルカワほか事件
争点 脳梗塞を発症し後遺障害を負った社員に対する安全配慮義務違反が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) 新車、中古車の卸小売販売等を目的とする被告Y1の従業員であったXが、Y1及びその代表取締役であるY2に対し、Xが脳梗塞を発症し、後遺障害が残ったのは、Y1におけるXの業務に起因するものであるなどと主張して、Y1に対しては民法415条に基づき、Y2に対しては会社法429条1項に基づき、損害賠償金の一部(家屋改造費、介護器具費及び車椅子購入費に係る損害を除く損害に対する賠償金)として1億5111万7077円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
(2) 原判決は、Xの請求を一部認容し、Yらに対し、9075万9566円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を命じたが、これを不服とするYらが、控訴を提起した。判決においては、8705万7790円及びこれに対する遅延損害金の支払を認容した。
参照法条 民法415条
会社法429条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 令和1年7月18日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 平成31年(ネ)41号
裁判結果 原判決一部変更
出典 労働判例1223号95頁
審級関係 上告、上告受理申立て(後、棄却、不受理)
評釈論文
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
(1)当裁判所も、原判決と同様、YにおけるXの業務と本件疾病との間には相当因果関係(業務起因性)があり、その点について、Yの安全配慮義務違反、Yの代表取締役Y2の悪意又は重大な過失が認められ、後遺障害については後遺障害等級2級相当として損害額を算定し、被控訴人の基礎疾患等を考慮して2割の素因減額を認めるのが相当であると判断するが、原審口頭弁論終結後の事情として、平成30年度中に受給した労災保険給付を損害額から控除する必要があるから、その限度で原判決を変更することとする。
(2)控訴人らは、Xには本件疾病発症前にも動脈硬化に起因する脳梗塞の痕跡があることを指摘し、本件疾病が業務とは関係のない、Xの基礎疾患の増悪によるものであると主張するが、以前に同様の部位で脳梗塞を発症していたことは、本件疾病が基礎疾患の自然経過による増悪によって発症したことを当然に裏付けるものではなく、むしろ、原判決認定にかかる労働時間等からすると、本件疾病発症前の脳梗塞も、本件疾病と同様の機序で発症したことを窺わせるのであるから、Yらの上記主張は失当というべきである。
(3)Yらは、Xが本件疾病発症時、脳梗塞の具体的症状を把握しながら、救急車を呼ばず、徒歩で自宅に帰るなどして治療が遅れたことをもって、過失相殺の対象とすべきであると主張するが、当時のXは、右手で字が書けない、足の感覚がなくなっていくなどの異変を感じ、妻に電話を掛けて迎えを求め、本件店舗から徒歩で自宅に向かったというものであり、自己が脳梗塞を発症していると認識していたわけではないし、一般人の医学的知識に鑑みれば、上記異変から脳梗塞を発症した可能性を考えて直ちに救急車を呼ぶべきであったということもできない。
 したがって、控訴人らが指摘する事情は、過失相殺の対象となるものではなく、その主張は採用できない。