全 情 報

ID番号 09325
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 イヤシス事件
争点 労働者性
事案概要 (1) 本件は、リラクゼーションサロンの経営等を目的とする被告(有限会社イヤシス)の運営する店舗において整体やリフレクソロジー等の施術等の業務を行っていた原告らが、原告らと被告との間の契約が業務委託契約ではなく労働契約であると主張して、被告に対し、労働契約に基づき、それぞれ未払の時間外割増賃金等並びにこれらに対する遅延損害金、また、労基法114条に基づき、割増賃金未払額の一部と同額の付加金及び遅延損害金の各支払を求める事案である。
(2) 判決は、原告らを労働基準法上の労働者と認め、労働契約に基づき、それぞれ未払の時間外割増賃金等及び付加金並びにこれらに対する遅延損害金の支払を命じた。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法114条
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/労働者/(21) マッサージ師
裁判年月日 令和1年10月24日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)3758号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1218号80頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/労働者/(21) マッサージ師〕
(1)業務従事時間の拘束性
 原告らの業務従事時間については、①本件各契約書に「委託時間は1日8時間から10時間を目途とする」と記載され、原告らに送付されたスタッフハンドブックにも「10分前出勤を徹底」、「休憩は8時間勤務で1時間」、「(※休憩中でも施術に入らなければいけない場合あり)」等の記載があること、②本件店舗に配置されたスタッフは、3名ないし4名であり、そのシフトにおいて、各日の労務を提供するのがそのうち2名又は3名であるところ、本件店舗においてスタッフ不足を理由に閉店できないから、休日の希望日が重なれば、どちらか一方が業務に従事せざるを得ないこと、③人員体制の状況を考えると、原告らが自由に中抜けすることも困難であること、④原告らは、被告に対し、売上兼出勤簿において、客の人数や売上のみならず、出退社時間も報告していたことから、仮にFが原告らに対し、業務従事(出勤)を明確には指示していなかったとしても、原告らは、被告によって業務従事時間の拘束を受けていたといわざるを得ない。
(2)報酬の労働対価性
 原告らの報酬は、歩合制であったけれども、1日当たり6000円又は5000円の最低保証額が定められており、しかも原告らの業務従事時間が8時間に満たない場合には減額されていたのであるから(認定事実ウ、サ)、原告らの報酬は労働の対価と評価せざるを得ない。
(3)諾否の自由、業務の内容・遂行方法に対する指揮命令、業務従事場所の拘束性、事業性等
 ①原告らが顧客の施術の依頼を自由に断れるわけではないこと、②被告が運営する店舗として他の店舗と同等のサービスを実施してもらう必要があったこと(そのための研修を受けてもらう必要もあること)は被告も認めていること、③原告らが被告に対し、イヤシスデータや売上兼出勤簿等によって業務報告をしていたこと、④原告らの業務従事場所が本件店舗と定められていたこと、⑤本件店舗自体及びその備品を被告が提供していたこと、⑥、原告らの報酬がほとんど最低保証額であって最低賃金を下回るものであり、被告の他の従業員に比して高額なものであったとはいえないこと、⑦本件各契約書には、労働契約書を修正等して作成されたためとはいえ、原告らが指摘するように「遅刻」や「始末書」等労働契約を前提とした文言が記載されていること、⑧本件各契約を業務委託とすることは、結果として、本件店舗の新規開店に伴うリスク(これまで展開してきたビジネスモデルと異なり、本件店舗での経営状況を計れなかったこと、周辺の他店舗との競争が激しいこと)をリラクゼーション業務の経験が乏しい原告らに負担させることとなって、原告らに酷な状況であったこと、からすれば、本件店舗には原告らと同様に委託契約を取り交わした者以外には店長を含む被告の従業員が配置されていなかったこと、原告らと被告の従業員(労働契約を締結した者)とで業務従事時間の管理や報酬、評価制度の有無等異なった取扱いがされていること等被告が指摘する点を考慮しても、原告らは、労基法上の労働者に当たると認められる。
(4)付加金について
 被告が原告らを業務委託とした経緯、被告が原告らに支払った報酬が最低賃金額を下回るものであったこと、被告が原告らに対し、割増賃金を支払ったことはないこと等の事情を総合すると、被告に対し付加金の支払を命ずるのが相当である。