全 情 報

ID番号 09327
事件名 正社員の地位確認等本訴請求、損害賠償反訴請求、雇用関係不存在確認請求控訴事件
いわゆる事件名 ジャパンビジネスラボ事件
争点 育休後の契約社員契約に変更合意の有効性などが問われた事案
事案概要 (1)(甲事件) 語学スクールの運営等を目的とする一審被告Yとの間で無期労働契約(本件正社員契約)を締結していた一審原告Xが、〈1〉育休後、有期労働契約(本件契約社員契約)を締結したことについて、①主位的には、本件正社員契約の解約合意は、均等法および育介法に違反する等無効であるとして、本件正社員契約に基づく地位確認および未払賃金、②予備的には、労働条件の正社員に戻れるとの停止条件付無期労働契約を締結したとして、本件正社員契約に基づく地位確認および未払賃金をもとめ、仮に正社員としての地位が認められないとしても、YがXに対してなした本件契約社員契約の更新拒絶は無効であるとして、本件契約社員契約に基づく地位確認および未払賃金を求め、〈2〉Xを契約社員にした上で正社員に戻すことを拒んだことやこれに関連する一連の行為は違法であると主張して、不法行為に基づき、慰謝料を求めた事案である。これに対してYは、反訴請求としてXが本訴提起したことにつき記者会見を行った際、Yの信用等が毀損されたとして、損害賠償を求める事案である。
(乙事件)YはXに対して本件契約社員契約に基づく地位にないことの確認を求めた事案である。
(2)原判決は、乙事件の訴えは却下し、甲事件については、平成26年9月1日付けで締結した契約期間を1年とする契約社員契約に関する合意(本件合意)によって本件正社員契約は解約されたものの、本件雇止めは無効として、本件契約社員契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求を認容するとともに、未払い賃金の支払いを命じた。また、不法行為に基づく損害賠償請求については、契約準備段階における信義則上の義務違反があるとして、Yに対し慰謝料等を認容し、Yの甲事件反訴請求については、本件記者会見における発言がそれのみによってYの名誉、信用が毀損される行為であるとは認められないとしてこれを棄却した。これに対し、当事者双方は、原判決中、各敗訴部分を不服として、それぞれ本件控訴を提起した。
(3)判決は、原審判決を変更し、Xの甲事件本訴については、不法行為による損害賠償として5万5000円及び遅延損害金のみを認め、Yの甲事件反訴請求については、不法行為による損害賠償として55万円及び遅延損害金を認めた。
参照法条 育児・介護休業法10条
男女雇用機会均等法9条法
体系項目 女性労働者(民事)/育児期間
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(25)担務変更・勤務形態の変更
解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 令和1年11月28日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ネ)4442号
裁判結果 原判決一部変更
出典 労働判例1215号5頁
労働経済判例速報2400号3頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
D1-Law.com判例体系
審級関係 上告、上告受理申立て (令和2年12月8日 最三小決 棄却、不受理)
評釈論文 野田進・労働法律旬報1951・1952号42~49頁2020年1月25日
藤田進太郎・労働経済判例速報2400号2頁2020年2月10日
出口かおり・季刊労働者の権利335号114~119頁2020年4月
烏蘭格日楽・季刊労働法269号193~202頁2020年6月
日原雪恵(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1550号128~131頁2020年10月
高仲幸雄・経営法曹206号87~95頁2020年12月
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(25)担務変更・勤務形態の変更〕
(1)Xは、雇用形態として選択の対象とされていた中から正社員ではなく契約社員を選択し、Yとの間で本件雇用契約書を取り交わし、契約社員として期間を1年更新とする有期労働契約を締結したもの(本件合意)であるから、これにより、本件正社員契約を解約したものと認めるのが相当である。
〔女性労働者(民事)/育児期間〕
(2)Yによる雇用形態の説明及び本件契約社員契約締結の際の説明の内容並びにその状況、Xが育児休業終了時に置かれていた状況、Xが自ら退職の意向を表明したものの、一転して契約社員としての復職を求めたという経過等によれば、本件合意には、Xの自由な意思に基づいてしたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものといえる。したがって、本件合意は、均等法9条3項や育介法10条の「不利益な取扱い」には当たらないというべきである。
(3)契約社員について、将来、正社員として稼働する環境が整い、本人が希望をした場合において、本人と一審被告との合意によって正社員契約を締結するとされているとしても、それはあくまで将来における想定にすぎず、本件契約社員契約の締結時において、契約社員が正社員に戻ることを希望した場合には、速やかに正社員に復帰させる合意があったとはいえない。また、本件合意は、Xが正社員への復帰を希望することを停止条件とする無期労働契約の締結を含むものでないことは明らかである。
(4)以上によれば、一審原告の①本件正社員契約、②停止条件付き雇用契約、③本件正社員復帰合意に基づく、正社員の地位の確認請求及び未払賃金等請求はいずれも理由がない。また、本件正社員復帰合意の債務不履行による損害賠償請求も理由がない。
〔解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕
(5)Xは、Yの代表者の命令に反し、自己がした誓約にも反して、執務室における録音を繰り返した上、職務専念義務に反し、就業時間中に、多数回にわたり、業務用のメールアドレスを使用して、私的なメールのやり取りをし、Yをマタハラ企業であるとの印象を与えようとして、マスコミ等の外部の関係者らに対し、あえて事実とは異なる情報を提供し、Yの名誉、信用を毀損するおそれがある行為に及び、Yとの信頼関係を破壊する行為に終始しており、かつ反省の念を示しているものでもないから、雇用の継続を期待できない十分な事由があるものと認められる。したがって、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であるというべきである。
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償〕
(6)Xが不法行為と主張するYの行為のうち、Xが就業規則違反と情報漏洩のため自宅待機処分となった旨を記載したメールを第三者に送信したことについてのみ不法行為が成立するところ、メールの内容等、本件に現れた一切の事情を考慮すると、Yの違法行為によりXが被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は5万円が相当であり、弁護士費用のうち5000円が上記不法行為と相当因果関係のある損害と認める。
(7)Xの各発言に基づく報道は、語学スクールを経営するYがあたかもマタハラ企業であるような印象を与えて社会的評価を低下させるものであり、実際に、Yを非難する意見等も寄せられたのであるから、本件各発言に基づく報道によってYの受けた影響は小さくないが、本件各発言に基づく報道の中にはYの主張も併せて紹介したものがあったことやYの公式ウェブサイトにおいてYの見解を表明して反論していることなど本件に現れた一切の事情を考慮すると、Xらによる本件発言がされ、これに基づく報道がされたことにより、Yが被った名誉又は信用を毀損されたことによる無形の損害は、50万円と認めるのが相当である。