全 情 報

ID番号 09331
事件名 地位確認等請求本訴事件(24066号)ほか
いわゆる事件名 みずほ銀行事件
争点 懲戒解雇の伴う退職金の支払
事案概要 (1) 被告(みずほ銀行)と期間の定めのない雇用契約を締結した原告が、対外秘である行内通達等を無断で多数持ち出し、出版社等に漏えいしたこと等を理由として懲戒解雇され、被告の退職金規程に基づき退職金の支払を受けられなかったことに関し、被告に対し、本件懲戒解雇により精神的損害を被ったと主張して、不法行為に基づき、5000万円等の支払を求めるとともに、〈1〉主位的に、本件懲戒解雇は無効であると主張して、本件雇用契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、並びに、本件懲戒解雇後の賃金等の支払を求め、〈2〉予備的に、仮に本件懲戒解雇が有効であるとしても、被告が指摘する退職金不支給事由は原告のそれまでの勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為ではなく、退職金を不支給とすることは許されないと主張して、退職金等の支払を求めた事案である。
(2) 判決は、懲戒解雇を有効と認めつつ、退職金については7割不支給とする限度で合理性を有するとした。
参照法条 労働契約法15条
労働基準法24条
体系項目 懲戒・懲戒解雇/3 懲戒権の濫用
賃金 (民事)/退職金/(3) 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 令和2年1月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)24066号
裁判結果 一部認容、一部棄却(24066号)
出典 判例時報2483号99頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇/3 懲戒権の濫用〕 1 被告は、銀行として国内外における金融サービスを提供するという業務の性質上、情報資産の適切な保護と利用が極めて重要であることから、本件情報セキュリティ規程を定め、被告職員に対して、情報セキュリティ対策の徹底を図っていた。そのような中、原告は、約3年半にわたって、漏えいが生じた場合に顧客等の情報主体又は被告グループの経営及び業務に対して重大な影響を及ぼすおそれがあるため厳格な管理を要するとされる「重要(MB)」に分類される情報を含む4件の情報資産を持ち出し、少なくとも15件の情報を出版社等に常習的に漏えいしたものであって、このような原告の行為は、情報資産の適切な保護と利用を重要視する被告の企業秩序に対する重大な違反行為であるというべきである。
 雑誌等において、「重要(MB)」に分類される通達を含む複数の通達及び資料そのものが掲載されたほか、漏えいされた情報に基づき多数の記事が執筆されたことが推認され、本件漏えい行為は、被告の情報管理体制に対する疑念を世間に生じさせ、被告の社会的評価を相応に低下させたものといえる。
 加えて、原告は、業務時間中に一般の顧客を装い、被告の営業店等に多数のクレームの電話を架けたことを理由として、平成27年8月頃にけん責の処分を受けており、顛末書では、反省の弁を述べるとともに、服務規律違反は一切ない旨誓約していたにもかかわらず、同時期頃から既に情報漏えいという服務規律違反行為を繰り返していたのであって、同懲戒処分による反省は何らみられない。
 以上を総合すると、原告と被告との間の信頼関係の破壊の程度は著しく、将来的に信頼関係の回復を期待することができる状況にもなかったといえ、被告において、処分の量定として懲戒解雇を選択することはやむを得なかったというべきであるから、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる。
〔賃金 (民事)/退職金/(3) 懲戒等の際の支給制限〕
2 退職金は、通常、賃金の後払い的性格と功労報償的性格とを併せ持つものであり、職員が懲戒処分を受けた場合に退職金を不支給とする条項があったとしても、当然に退職金を不支給とすることは相当ではなく、これを不支給とすることができるのは、労働者が使用者に採用されて以降の長年の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為がある場合に限られると解するのが相当である。
 これを本件についてみると、本件各違反行為は、情報資産の適切な保護と利用を重要視する被告の企業秩序に対する重大な違反行為であり、被告の社会的評価を相応に低下させたものといえる。しかし、本件各違反行為により、顧客へのサービスに混乱を生じさせたり、被告の決済システムに重大な影響を及ぼす等顧客に損失が発生する事態が発生したとの事実は認められず、被告に具体的な経済的損失が発生したことを示す的確な証拠もない。また、平成14年の情報持ち出し及び平成27年のけん責処分以外には、原告の30年以上に上る勤続期間中の勤務態度や服務実績等が格別不良であったとする事情はうかがわれない。
 以上を総合すると、本件各違反行為は、被告に採用されて以降の原告の長年の勤続の功を相応に抹消ないし減殺するものといえるが、これを完全に抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為であったとまで評価することは困難であり、本件不支給決定は、本件退職一時金及び本件退職年金をそれぞれ7割不支給とする限度で合理性を有するとみるのが相当である。