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ID番号 09341
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 ニチイ学館事件
争点 降格処分の有効性
事案概要 (1) 本件は、医療、介護、保育等の人材育成のための教育事業、介護保険法に基づく指定居宅介護支援事業等を目的とする被告(株式会社ニチイ学館)の従業員である原告が、被告の行った課長職から出向先での係長への降格及びそれに伴う減給が無効であるとして、被告に対し、労働契約に基づき、未払賃金計及び遅延損害金等の支払を求める事案である。
(2) 判決は、降格処分を無効とし、未払賃金473万5000円等の支払を命じた。
参照法条 労働契約法3条5項
民事訴訟法135条
体系項目 労働契約 (民事)/16人事権
裁判年月日 令和2年2月27日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)3975号
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却
出典 労働判例1224号92頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔労働契約 (民事)/16人事権〕
(1)被告は、営業統括部営業○課(以下、単に「営業○課」という。)課長であった原告に対し、平成27年4月1日付けで株式会社ニチイケアネットへの出向を命じ、原告は、同社の関西支社係長に任命された(本件降格)。
(2)被告のA執行役員は、原告に対し、平成26年4月頃、家事代行法人契約からの利用者獲得営業及び介護セミナー販売営業に特化するよう命じ、原告は、〈1〉家事代行法人契約からの利用者獲得数が年間400名、〈2〉介護セミナー開催数が年間60回との目標設定を行ったが、同年12月までに、〈1〉原告によって締結された家事代行法人契約が6社で利用者はなく、〈2〉介護セミナーの開催が1回にとどまり、その目標を達成できなかった。その結果、原告の平成26年度上期及び下期の評価は、いずれもEとなった。しかしながら、目標設定自体が原告にとって達成困難なものであったことは被告も認めていること、原告が被告の営業業務にあまり慣れていなかったこと、介護事業の法人営業が、被告において十分な実績が上がっておらず、これから全社的に強化していこうという分野であったことからすれば、わずか1年の実績で原告の適性を評価するのは酷である。そもそも原告が必要とされるのは営業の管理職として部下を指導するに当たっての営業の経験であって、営業の現場で実績を上げる能力とは必ずしも一致せず、それがないからといって直ちに営業の管理職として適性を欠くといえるものではない。また、原告が営業○課の他の従業員が担当していない法人営業に特化した経験をすることで、どの程度その指導につながるのかも疑問がある。
(3)本件降格は、3段階の降格であり、総額24万2500円(約45%)の給与の減額をもたらしたものであって、原告の被った不利益は極めて大きい。経緯に照らすと、本件降格までの原告の勤務状況によって、原告に対してこのような大きな不利益を与えるまでの相当性があるとはいえない。
 以上によれば、本件降格は、被告の人事権を濫用するものであって無効である。