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ID番号 09343
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 池一菜果園ほか事件
争点 業務上の自死に伴う損害賠償
事案概要 (1) 本件は、被告会社(有限会社池一菜果園)に勤務していた労働者(以下「A」という。)が、長時間労働による心理的負荷がかかっている中で、被告会社の代表取締役である被告Y1の娘であり、常務取締役である被告Y2による平成22年2月6日及び同月8日のひどい嫌がらせ・いじめ(以下「2月の出来事」という。)によって、業務上強度の心理的負荷を受け、精神障害を発病し、翌同月9日に自死(平成24年11月に労災保険法による業務上災害として認定)したとして、Aの相続人である原告らが、被告会社に対しては安全配慮義務違反に基づき、被告Y1及び被告Y2に対しては安全配慮義務違反又は会社法429条1項に基づき、連帯して、損害金等の支払を求める事案である。
(2) 判決は、被告Y1、Y2は、いずれも会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負うとして、損害賠償を認めた。
参照法条 会社法429条1項
労働契約法5条
体系項目 労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任
裁判年月日 令和2年2月28日
裁判所名 高知地
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)117号
裁判結果 損害賠償請求事件
出典 労働判例1225号25頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 長谷川栄治・経営法曹208号39~52頁2021年6月
判決理由 〔労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任〕
(1)精神障害の業務起因性の認定基準に基づき心理的負荷を総合評価すると、(ひどい)嫌がらせ・いじめと評価される出来事の前に恒常的長時間労働があり、当該出来事の直後に本件精神障害の発病が認められ、心理的負荷の強度は「強」と評価される。したがって、本件精神障害は、相当因果関係(業務起因性)が認められる。
(2)使用者が労働契約に基づき労働者に対して負う安全配慮義務は、労働者の職場における安全と健康を確保するために十分な配慮をなす債務であり、かかる目標を達成するために必要かつ相当な措置を講ずる債務であることからすれば、本件のように、労働者が精神障害を発病しこれによって自死した事案については、個別具体的な状況において、労働者が心身の健康が損なわれることによって何らかの精神障害を発病する危険な状態が生ずることにつき、使用者において予見可能であることが求められると解するのが相当である。Aが自死前の6か月間における時間外労働によって相応の心理的負荷を受けていたことは、前記認定のとおり、労働時間をタイムカードによって管理していたことや、業務内容を業務日誌等で把握していたことから、被告らにおいて認識し又は容易に認識することができたというべきである。
 また、代表取締役である被告Y1と常務取締役である被告Y2が2月の出来事の当事者であり、専務取締役であるDも関与していたことからすれば、被告らにおいて、この出来事によってAが相応のストレスを受けることを認識し又は認識することができたというべきである。
 そして、時間外労働と2月の出来事による心理的負荷の強度が「強」と評価されるものであるから、被告らにおいて、Aが心身の健康を損ない、何らかの精神障害を発病する危険な状態が生ずることにつき、予見できたといえる。
(3)確かに、時間外労働時間自体は月100時間を超えた月以外は80時間を超えておらず、Aは、2月6日の出来事が起こるまでは、被告らには勿論、原告ら家族に対しても自死することを疑わせるような重大な心身の不調を見せたことがなかったものである。しかしながら、長時間労働による疲労それ自体のみで心身の健康を損ない、何らかの精神障害を発病する危険な状態が生ずるとまでは予見できなくとも、長時間労働による疲労が蓄積しうる状況にあることは認識できたはずであり、また、疲労が蓄積された状態ではストレスに対する耐性が減退することも認識できたはずである。
 そして、2月の出来事については、2月6日の出来事自体が、Aに相当高い程度にストレスを与えたことは、発言をした被告Y2はもとより、その場に途中から居合わせた被告Y1においても認識したはずであり、被告らにおいて、冷静に状況を確認すれば、同族会社の役員らが、家族の都合で予め許可を得て休暇を取得していた従業員の休暇を理不尽に怒鳴りつけて返上させることになった状況を知ることができ、常識的に考えれば、従業員に対して謝罪するなどの措置を講ずべき場面であると容易に想像できたはずであるのに、かえって、休暇中のAを呼び出した挙句、部下の前で、更に追い打ちをかけるように一方的な叱責を加えた(2月8日の出来事)のであるから、被告Y1及び被告Y2において、更に重度のストレスを与えることになったことは認識していたといえる。そうすると、被告会社において、Aの心身の健康を損ない、何らかの精神障害を発病する危険な状態が生ずることを予見できたというべきである。
(4)以上を総合すれば、被告会社は、Aに対し、長時間労働による疲労や業務上の心理的負荷等が過度に蓄積しないように注意ないし配慮する義務を負っていたにもかかわらず、Aに長時間労働を行わせつつ不相当な指導を行い、かかる義務に違反したと認められる。
(5)被告Y1及び被告Y2は、いずれもAの時間外労働時間及び業務内容並びに2月の出来事の内容を認識し又は認識できたのであり、被告会社の規模を考慮すれば取締役において容易に認識し得たものである。したがって、上記義務違反には故意又は重過失が認められるというべきである。