全 情 報

ID番号 09348
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 前原鎔断事件
争点 勉強会の労働時間性
事案概要 (1) 本件は、被告(前原鎔断株式会社)との間で期間の定めのない雇用契約を締結して稼働していた原告が、〈1〉被告から普通解雇されたが、同解雇は無効であると主張して、地位確認及び未払賃金等の支払を、〈2〉被告の従業員らからパワー・ハラスメント行為(以下「パワハラ行為」という。)を受けたと主張して、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償等の支払を、〈3〉安全活動や勉強会に参加した時間が時間外労働に当たるとして、これに対する割増賃金が支払われていないと主張して、未払割増賃金等の支払を、それぞれ求める事案である。
(2) 判決は、〈1〉については解雇は有効であるとし、〈2〉については不法行為に該当する事実はないとして、いずれも原告の主張は棄却し、〈3〉については原告の主張を認め、勉強会に参加した時間は労働時間に当たるとして、この時間に対する未払割増賃金等2万0523円及びこれに対する遅延損害金の支払いを命じた。
参照法条 労働基準法32条
体系項目 解雇 (民事)/解雇事由/ (2) 勤務成績不良・勤務態度
労働時間 (民事)/労働時間の概念/(8) 研修・教育訓練
裁判年月日 令和2年3月3日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)30040号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1233号47頁
労働経済判例速報2432号19頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔解雇 (民事)/解雇事由/ (2) 勤務成績不良・勤務態度〕
(1)原告は、被告への入社から12年以上経過した後においても、上司や伝票による指示を確認し、これに従うという労務提供に際して必須かつ基本的な意識すら欠く勤務態度であり、「勉強会」の実施や主任による指導を受けながらも、新入社員がおおむね3か月くらいでマスターする仕上げ作業をマスターできない状況にあったこと、クレーンに関する懲戒処分を受けた後かつ入社から13年以上経過した後も、原告自身の業務の危険性に頓着しない勤務態度に及んで立て続けに2件のクレーン事故を起こしたこと、これらの事故について懲戒処分を受けた2か月後にもクレーン事故を起こし、工場全体の操業停止という事態を発生させたこと、以上の点を併せ鑑みれば、被告が、原告の就業状況が著しく不良で就業に適さない、あるいはこれに準ずるものとしてした本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当と認められる。
 なお、原告は、技量が低いことは、減給や賞与評価で反映されており、それ以上解雇するのは行き過ぎである旨主張するが、上述のとおり、原告の就業状況の不良性は技量の低さのみに依拠するものではなく、原告の主張を踏まえても、上記判断は左右されない。
〔労働時間 (民事)/労働時間の概念/(8) 研修・教育訓練〕
(2)安全委員会の「安全活動」とは、月に1回30分程度、安全標語の作成、ライン引き、工場内の整理整頓等の工場の安全に関する活動を行うものであること、「安全活動」への参加に関して出欠は取られていないこと、「安全活動」への不参加に対する制裁はなく、「安全活動」への参加で査定や待遇面で有利になることもないこと、就業規則上、「安全活動」に関する規定は存在しないこと、以上の事実が認められる。
 そうすると、「安全活動」は、被告の業務に関連する活動ではあるが、就業規則上「安全活動」に関する規定は存在せず、出欠が取られるものでも不参加の場合制裁が課されるものでもなく、参加によって査定等で有利になるものでもないのであるから、「安全活動」に参加する時間が被告の指揮命令下に置かれている時間、すなわち労働基準法上の労働時間に該当するとはいえない。よって、原告の、「安全活動」に参加する時間が時間外労働に当たることを前提とする割増賃金請求は、理由がない。
(3)「勉強会」は、本件組合の提案を受けて開催されるようになったものではあるものの、原告に対する指導内容等を振り返ることを内容とするものであるから、原告が参加せずに開催されることはそもそも予定されていない。また、原告は、平成20年の時点において、既に、被告の従業員らから、なかなか仕事の技術が身に付かないと認識されていたものであり、原告が「勉強会」に参加せず、その後も技術が身に付かないままであれば、原告の賃金や賞与の査定如何、ひいては従業員としての地位如何にかかわるのは明らかである。加えて、被告の就業規則には、「会社は、従業員に対し、業務上必要な知識、技能を高め、資質の向上を図るため、必要な教育訓練を行う。」、「従業員は、会社から教育訓練を受講するよう指示された場合は、特段の事由がない限り指示された教育訓練を受講しなければならない。」と規定されていることをも併せ鑑みれば、原告が「勉強会」に参加する時間は、被告の指揮命令下に置かれている時間、すなわち労働基準法上の労働時間に該当すると解するのが相当である。
 なお、「勉強会」の日時について原告の予定を考慮して決められたり、原告の都合により日程を変更したりしたこともあることによって、上記判断は左右されない。