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ID番号 09349
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 社会福祉法人緑友会事件
争点 妊娠、出産を理由とする不利益取扱い
事案概要 (1) 本件は、被告に雇用されていた原告が、被告が原告に対してした平成30年5月9日付解雇が客観的合理的理由及び社会通念上相当性があるとは認められず、権利の濫用に当たり、また、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「均等法」という。)9条4項に違反することから無効であると主張して、被告に対し、〈1〉労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、〈2〉労働契約に基づく賃金の支払これに対する遅延損害金の支払、〈3〉労働契約に基づく賞与の支払これに対する遅延損害金の支払、〈4〉本件解雇が違法であり、不法行為に当たると主張して、a本件解雇により受給することができなかった産休・育休の社会保険給付相当額の損害賠償金の支払い及びこれに対する遅延損害金の支払、b慰謝料等220万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
(2)判決は、本件は無効な解雇であるとして、原告主張の〈1〉労働契約上の権利を有する地位にあることの確認〈2〉賃金の支払等〈3〉賞与の支払等を認めるとともに、不法行為に基づく産休育休期間中の社会保険給付相当額の損害賠償、慰謝料等を認めた。
参照法条 労働契約法16条
体系項目 解雇 (民事)/3 解雇権の濫用
裁判年月日 令和2年3月4日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)31796号
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却
出典 労働判例1225号5頁
審級関係 控訴(平成3年3月4日東京高裁判決:弁護士費用の拡張請求のみを認め、その余の控訴は棄却)
評釈論文 柳澤武・法学セミナー65巻12号121頁2020年12月
判決理由 〔解雇 (民事)/3 解雇権の濫用〕
(1)被告理事長の原告に対する当該面談における育児休業から復職させることはできない旨の通告は、実質的には、原告に対する解雇の意思表示であったと認めるのが相当である。
本件で認定できる原告の言動等を前提とした場合、これらが就業規則24条7号の「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があり、理事長が解雇を相当と認めたとき」に該当するとはいえないから、本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認めることもできず、権利の濫用として、無効であると解される。
(2)均等法9条4項は、妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇を原則として禁止しているところ、これは、妊娠中及び出産後1年を経過しない女性労働者については、妊娠、出産による様々な身体的・精神的負荷が想定されることから、妊娠中及び出産後1年を経過しない期間については、原則として解雇を禁止することで、安心して女性が妊娠、出産及び育児ができることを保障した趣旨の規定であると解される。同項但書きは、「前項(9条3項)に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。」と規定するが、前記の趣旨を踏まえると、使用者は、単に妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを主張立証するだけでは足りず、妊娠・出産等以外の客観的に合理的な解雇理由があることを主張立証する必要があるものと解される。
 そうすると、本件解雇には、客観的合理的理由があると認められないことは前記(1)のとおりであるから、被告が、均等法9条4項但書きの「前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明した」とはいえず、均等法9条4項に違反するといえ、この点においても、本件解雇は無効というべきである。
(3)本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、権利の濫用に当たり無効であることに加え、均等法9条4項に違反するものであるから、違法であり、被告に不法行為責任が成立すると解される。本件解雇がなければ、原告の第2子の出産に係る産休・育休期間は、平成31年4月1日から令和2年4月末日までと合意されたであろうと考えられることからすると、当該期間に受給できなかった出産一時金及び育児休業給付金相当額が、本件解雇と相当因果関係のある損害といえると解される。
(4)解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないと解される。
 もっとも、本件においては、育児休業後の復職のために第1子の保育所入所の手続を進め、保育所入所も決まり、復職を申し入れたにもかかわらず、客観的合理的理由がなく直前になって復職を拒否され、均等法9条4項にも違反する本件解雇をされた結果、第1子の保育所入所も取り消されるという経過をたどっている。このような経過に鑑みると、原告がその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが認められ、賃金支払等によってその精神的苦痛が概ね慰謝されたものとみることは相当ではない。
 そして、本件に表れた一切の事情を考慮すれば、被告による違法な本件解雇により、原告に生じた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は30万円と認めるのが相当であり、これと相当因果関係にあると認められる弁護士費用3万円と併せて、被告は損害賠償義務を負うというべきである。