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ID番号 09352
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 高知県公立大学法人事件/高知県公立大学法人(第2)事件
争点 雇止めが無効の場合の労働契約法18条の適用
事案概要 (1) 本件は、被告(高知県公立大学法人)との間でシステムエンジニアとして補助金が平成24年度から30年度までの7年交付される予定があった災害看護グローバルリーダー養成プログラム(Disaster Nursing Global Leader養成プログラム、以下「DNGLプログラム」という。)に従事するため、期間の定めのある労働契約を平成25年11月1日に締結し、3回にわたり当該労働契約を更新した原告が、平成30年4月1日以降、被告が当該労働契約を更新しなかったこと(以下「本件雇止め」という。)について、労働契約法(以下「労契法」という。)19条に基づき、当該労働契約が更新され、その後、通算契約期間が5年を超えたことから、同法18条1項に基づき、期間の定めのない労働契約に転換したなどと主張し、被告に対し、原告が雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに同月分以降の賃金、賞与及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 判決は、本件雇止めは無効であり、遅くとも平成31年3月31日までの間に、原告が被告に対し労働契約法18条1項に基づく無期労働契約締結の申込みの意思表示を行ったと認めるのが相当であるとして、原告が雇用契約上の権利を有する地位にあること、及び被告から就業を拒否された平成30年4月1日以降の賃金支払請求権を認めた。
参照法条 労働契約法18条
労働契約法19条
体系項目 解雇 (民事)/14短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
裁判年月日 令和2年3月17日
裁判所名 高知地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)82号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1234号23頁
労働経済判例速報2415号14頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 小西康之・ジュリスト1547号4~5頁2020年7月
野田進・労働法律旬報1969号36~45頁2020年10月10日
吉田肇・民商法雑誌157巻1号143~155頁2021年4月
坂井岳夫(労働判例研究会)・法律時報93巻10号140~143頁2021年9月
判決理由 〔解雇 (民事)/14短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕
(1)本件労働契約は、当初から更新が予定されていたものの、最長でDNGLプロジェクト終了時までを契約期間として予定していた有期労働契約であるというべきであり、本件雇止めが無期労働契約に係る解雇の意思表示と同視できるとはいえない。よって、本件雇止めが無期労働契約の解雇と同視することはできず、原被告間の本件労働契約は労契法19条1号には該当しない。
(2)本件労働契約締結時において、原告は、本件労働契約自体の期間は5か月であるものの、契約期間満了時に更新され、DNGLプロジェクトが終了する平成31年3月31日まで雇用が継続されるという期待を抱いたものと認めることができる。そして、DNGLプロジェクトが国からの補助金を受けて実施される事業であり、複数の大学法人によって共通の大学院を設置するもので、5年一貫の大学院教育を施すべく、毎年新規の学生を募集するものとなっていたというDNGLプログラムの性質上、補助金交付が終了した後も、何らかの枠組みで大学院教育課程の継続が想定され得たことからすれば、DNGLプロジェクト自体が途中で終了するとは予想し難かったといえる。また、当時の学長であったJ学長の意向を踏まえて、後に学長となったI副学長が、自ら、DNGLプログラムの責任者として、6年間の契約期間の提案を行ったこと等を考慮すれば、被告大学外から招聘された立場にあった原告にとって、DNGLプロジェクトが終了する平成31年3月31日まで雇用が継続されると期待したことには、合理的な理由があるというべきである。
以上より、労働契約の契約期間満了時において、労働契約が更新されるものと期待することにつき合理的な理由があると認められるため、原被告間の労働契約は労契法19条2号に該当する。
(3)本件雇止めは、被告における財政状況の悪化とDNGLプログラムに係るシステム構築作業の完了などを理由としてなされたものであり、労働者である原告の責めに帰すべき事由によるものとはいえないため、本件雇止めに客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当であるといえるか否かを判断する際には、無期労働契約との差異を十分に踏まえつつ、整理解雇の場合に準じて、〈1〉人員削減の必要性、〈2〉雇止め回避努力、〈3〉人選の合理性及び〈4〉手続の相当性の各事情を総合的に考慮して判断する必要がある。
 これに加えて、本件雇止めがなされた時期が、雇止めがなされなければ、労契法18条1項に基づいて有期労働契約が期間の定めのない契約へ転換しうる時期にあったことも踏まえて検討する必要がある。
 確かに、整理解雇に準じて、原告を雇止めることに関して、雇止めを肯定すべき事情が全くないわけではないが、6年間のDNGLプロジェクトの存在を前提としていた本件労働契約について、DNGLプロジェクトが終了する1年前に、本件労働契約に関して、あえて雇止めをしなければならない、客観的な理由や社会通念上の相当性があったのかは疑問であり、原告一人の雇用を1年継続したとしても、経理上深刻な問題が生じたとまではいい難いし、雇止め以外の方法が皆無であったともいい難いから、被告は否定するものの、その時期に鑑みれば、やはり、被告は、労契法18条1項による転換を強く意識していたものと推認できるというべきであり、原告に雇用契約が更新されるとの合理的な期待が認められるにもかかわらず、同条同項が適用される直前に雇止めをするという、法を潜脱するかのような雇止めを是認することはできない。
 本件労働契約は、平成30年4月1日、契約期間を同日から平成31年3月31日まで、契約を更新しない、従事すべき業務の内容をDNGLプログラム特定プロジェクトに関する業務(技術)とし、賃金月額35万7000円(支払日は毎月16日)、賞与は6月30日と12月10日の2回でいずれも基本給の100分の200の額とする労働条件で、更新されたと認められる(以下「本件契約更新」という。)。
(4)本件では、原告が、平成30年4月1日から平成31年3月31日までの間に、被告に対し、無期労働契約の締結を明示して申し込んだ事実は認められない。
 しかしながら、原告が被告に対し明示的な申込みをしなかったのは本件雇止めを受けたためであること、原告は、平成30年4月13日、本件訴訟を提訴し、当審口頭弁論終結時まで一貫して、本件雇止めが労契法19条によって無効であり同月1日から本件労働契約が更新されたことを理由として、被告に対し、現在も労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び同月から本判決確定までの賃金支払等を請求しており、さらに、同法18条1項に基づき、本件労働契約が無期労働契約に転換した旨の主張もしていることなどを考慮すれば、遅くとも平成31年3月31日までの間に、原告が被告に対し同条同項に基づく無期労働契約締結の申込みの意思表示を行ったと認めるのが相当である。
 そして、本件労働契約締結日は平成25年11月1日であるところ、第1回契約更新ないし本件契約更新によって本件労働契約は4回更新され、契約期間満了日である平成31年3月31日までの通算契約期間は約5年5か月であると認められる。
 したがって、同条同項より、被告は、契約期間の定めを除く本件契約更新後の本件労働契約の労働条件と同一の労働条件で、上記申込みを承諾したものとみなされる。