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ID番号 09353
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 高知県公立大学法人事件/高知県公立大学法人(第2)事件
争点 雇止めが無効の場合の労働契約法18条の適用
事案概要 (1) 本件は、一審被告(高知県公立大学法人)との間でシステムエンジニアとして補助金が平成24年度から30年度までの7年交付される予定があった災害看護グローバルリーダー養成プログラム(Disaster Nursing Global Leader養成プログラム、以下「DNGLプログラム」という。)に従事するため、期間の定めのある労働契約を平成25年11月1日に締結し、3回にわたり当該労働契約を更新した一審原告が、平成30年4月1日以降、被告が当該労働契約を更新しなかったこと(以下「本件雇止め」という。)について、労働契約法(以下「労契法」という。)19条に基づき、当該労働契約が更新され、その後、通算契約期間が5年を超えたことから、同法18条1項に基づき、期間の定めのない労働契約に転換したなどと主張し、一審被告に対し、一審原告が雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに同月分以降の賃金、賞与及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 原審判決は、本件雇止めは無効であり、遅くとも平成31年3月31日までの間に、一審原告が一審被告に対し労働契約法18条1項に基づく無期労働契約締結の申込みの意思表示を行ったと認めるのが相当であるとして、原告が雇用契約上の権利を有する地位にあること、及び一審被告から就業を拒否された平成30年4月1日以降の賃金支払請求権を認めた。これに対し、一審原告、一審被告が控訴した。
(3)本判決は、労働契約法18条1項に基づく一審原告の無期転換は認めず、労働契約法19条に基づき本件雇止めが無効であるとして、平成30年4月1日~平成31年3月31日の間の賃金の支払いを命じた。
参照法条 労働契約法18条
労働契約法19条
体系項目 解雇 (民事)/14短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
裁判年月日 令和3年4月2日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(ネ)81号
裁判結果 原判決一部変更
出典 労働経済判例速報2456号3頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 上告受理申立て(2021年8月10日不受理)
評釈論文
判決理由 〔解雇 (民事)/14短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕
(1)第1審被告には、本件雇止めを正当化するほどの人員削減の必要性があったとは認められないこと、第1審被告が第1審原告の本件雇止めを回避するための努力をしていたとは評価できないこと、第1審被告が、DNGLプロジェクトが終了する前の段階で、第1審原告1人を対象として本件雇止めをしたことにつき、人選の合理性があったとは認められないことに照らすと、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないといわざるを得ない。
 したがって、本件労働契約は、第1審原告が平成30年2月20日、第1審原告に対し、本件労働契約の更新を申し込んだことにより、労働契約法19条2号が適用され、第1審被告が同一の労働条件でこの申込みを承諾したものとみなされる。
(2)労働契約法18条1項は、無期労働契約を原則とするものではないが、一定期間を超えた有期労働契約の継続的利用を同契約の濫用的利用と評価しつつ、有期労働契約であることに伴い労働者に有利な労働条件が定められることもあるので、自動的な無期転換ではなく、労働者の意思に応じて無期労働契約への転換を求める権利を与えるとともに、使用者側に無期労働契約の締結を強制し、もって、安定した無期労働契約を促進する趣旨であると解される。
 そうであるとすれば、同項に規定する無期転換申込権は、当該契約期間中に通算契約期間が5年を超えることになる有期労働契約の契約期間の開始時点で発生し、その行使が可能になり、その契約期間が満了する日までの間に、有期労働契約を無期労働契約に転換する意思を有することが判別できる方法で行使することが必要であると解される。
 そこで、第1審原告が無転換申込権行使の意思表示をした時期について検討するに、前記認定事実によれば、第1審原告が明示的に第1審被告に対して本件労働契約につき無期転換申込権行使の意思表示をしたのは、本件労働契約の期間満了(平成31年3月31日)の後である令和元年8月9日付けの準備書面によってであったことが認められる。
 したがって、第1審原告が労働契約法18条1項所定の期間内に無期転換申込権を行使したとは認められない。
(3)これに対し、第1審原告は、違法無効な雇止めをされたため、令和2年3月17日に原判決が言い渡されるまでの間、明示的に無期転換申込権を行使することが到底期待できない状態にあったから、無期転換申込権を行使するまでもなく無期労働契約への転換が生ずると解するのが相当である旨主張する。
 しかしながら、第1審原告の上記解釈は、労働契約法18条1項前段の規定に明確に反するものであって採り得ない。また、第1審原告は、本件雇止めの前の段階から、5年以上の有期労働契約更新により無期転換申込権が発生すると認識していたこと、法律専門家である弁護士の原審訴訟代理人に本件訴訟の提起及び追行を委任した上で、平成30年4月13日には、本件訴訟を提起していたのであるから(訴状で、第1審原告が主張するとおり、本件雇止めが違法無効があれば、訴訟提起時点から無期転換申込権の行使が可能であった。)、同年4月1日~平成31年3月31日の間に無期転換申込権を行使することがことさら困難であったとする事情は認められない。そうすると、第1審原告の上記主張は採用できない。
(5)第1審原告は、本件訴訟における訴状その他第1審原告作成に係る準備書面や第1審原告提出に係る証拠から、第1審原告が第1審被告に対して平成30年4月1日以降の継続雇用を希望していたのが明らかであるから、無期転換申込権を行使したと評価できる旨主張する。
 しかしながら、前記で、原判決を補正の上引用した認定事実によれば、第1審原告が無期転換申込権を行使したのは令和元年8月9日が最初であって、それまでの第1審原告の原審における主張は、本件雇止めは無期転換申込権の発生を阻害するものであって無効であり、有期労働契約の更新が認められるべきであるという主張にとどまることが認められ、同日までには、黙示的にせよ無期転換申込権を行使していたと評価することは困難である。そうすると、第1審原告の上記主張は採用できない。
(6)したがって、第1審原告が、労働契約法18条1項所定の期間内に、第1審被告に対し、本件労働契約につき無期転換申込権を行使したとは認められない。
 そうすると、第1審原告は、現時点(当審の口頭弁論終結時)においては、本件労働契約上の地位にあるとは認められないし、平成31年4月1日以降の賃金請求は認められないというべきである。