全 情 報

ID番号 09357
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 学校法人日通学園(大学准教授)事件
争点 職種変更の有効性
事案概要 (1) 本件は、被告(学校法人日通学園)が運営するB大学の法学部准教授であった原告が、平成25年6月4日から休職していたところ、平成26年12月1日以前に休職事由が消滅したにもかかわらず被告が原告を復職させず、また同日に復職した際、被告は、職種変更命令により、准教授としてではなく事務職員として復職させ、その後5年以上勤務していたが、原告は職種を限定して採用されており、かつ本件職種変更命令に同意していないから同命令は無効である等と主張して、本件雇用契約に基づき、准教授としての地位にあることの確認、准教授と事務職員の給与の差額及びこれに対する遅延損害金の支払、平成30年5月から本判決確定の日まで准教授としての将来賃金及びこれらに対する遅延損害金の支払、人格権に基づき、e-Rad(府省共通研究開発管理システ。以下「本システム」という。)の原告の職名等の変更等の記載に係る慰謝料1000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2) 判決は、職種変更命令は無効とし、原告が准教授としての地位にあることの確認及び原告を平成26年12月1日以降准教授として支払われるべき給与と事務職員として実際に支給された給与との差額の未払の給与等の支払いを認容し、本システムの原告の職名等の変更等の記載に係る慰謝料の請求は棄却した。
参照法条 労働契約法8条
体系項目 労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/ (25) 担務変更・勤務形態の変更
裁判年月日 令和2年3月25日
裁判所名 千葉地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)1822号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1243号101頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 森戸英幸・ジュリスト1549号4~5頁2020年9月
判決理由 〔労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/ (25) 担務変更・勤務形態の変更〕
(1)雇用契約において職種が限定されているか否かは、採用時に求められた資格や業績等の条件の有無及び内容、採用手続の相違、業務内容の専門性や特殊性、労働条件の相違、当該職種における過去の職種の変更の実績等を総合的に考慮して判断すべきである。
 被告において大学の教育職員として採用時に求められる経歴や業績、事務職員等との採用手続の相違、大学の教育職員の業務内容の専門性、特殊性、事務職員等との労働条件の相違、被告における大学の教育職員から事務職員への職種の変更の実績等を総合すれば、原告を被告の大学の教育職員として雇用する旨の雇用契約は、職種を教育職員に限定して締結されているものと認めるのが相当である。
 被告は、就業規則上、学園理事長に職種の変更を命ずる権限が付与されているから、本件雇用契約は職種限定契約ではないと主張する。しかし、就業規則の最低基準効に反しない限り、雇用契約においてこれと異なる合意をすることは可能であり、その雇用契約における合意は就業規則に優先すると解される。上記認定のとおり、本件雇用契約は原告の職種を教育職員に限定して締結されたものであるから、就業規則において学園理事長に職種の変更を命ずる権限が付与されているとしても、本件雇用契約における合意が優先し、原告と被告との間の雇用契約は職種限定契約であると認められる。
(2)雇用契約において職種が限定されているとしても、労働者の個別の同意がある場合には職種を変更することが可能であると解されるところ、原告は被告から職種変更の提案を受けた際、その理由を問い質していること、H弁護士は、証人Gに対し、事あるごとに一貫して原告は職種の変更に同意していない旨を伝えていたことからすれば、原告が職種の変更に同意していたとは認められない。また、確かに、原告は本件職種変更命令後現在まで、事務職員として5年以上稼働しているが、事務職員として復職後も、被告との間で教育職員として復職するために交渉を継続していたことからすれば、原告は休職期間満了による解雇を回避し、被告との間の本件紛争が解決されるまで事務職員として勤務しているにすぎないと認めるのが相当であるから、原告が黙示に事務職員に職種を変更することに同意したとは認められない。
(3)本件雇用契約は職種限定契約であり、原告が本件職種変更命令に明示又は黙示に同意したとは認められないから、本件職種変更命令は無効である。
(4)本システムは、研究者の情報(経歴)が記載されるものであり、政府の関係するシステムであるため、本システムは一般的に高い信用性があると認識されているとは認められるものの、本システムは研究者の経歴を明らかにする一手段にすぎないものであり、他の手段によって研究者の経歴を証明することも可能であると認められる。
 原告は、本システムに誤った記載がなされたことにより、研究者としての活動ができなくなり、また、原告の名誉が毀損されたと主張するが、前記のとおり、本システムのみが原告の経歴を証明する手段であるとはいえず、他の手段によって原告の経歴を証明することも可能であると認められるから、本システムに誤った記載がなされたことにより、研究者として活動することができなくなったり、原告の社会的評価が低下したとは認められない。