全 情 報

ID番号 09360
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 東京キタイチ事件
争点 解雇権の濫用、安全配慮義務違反
事案概要 (1) 本件は、被控訴人(株式会社東京キタイチ)との間で期限の定めのない雇用契約を締結し、これに基づき被告A工場で就労していた控訴人が、業務中に右手小指を負傷し、その後被控訴人から普通解雇されたことについて、被控訴人に対し、〈1〉本件解雇は無効であると主張し、控訴人が雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、雇用契約に基づく賃金及び賞与等の支払を求めるとともに、〈2〉控訴人が右小指を負傷したこと及び被控訴人が控訴人の復職要請に真摯に対応しなかったことにつき被控訴人の安全配慮義務違反が認められると主張し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求等の支払を求める事案である。
(2) 原審判決は、控訴人のいずれの主張も棄却したため、控訴人が控訴した。本判決は、解雇を無効とし、控訴人の雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに、控訴人に対する賃金、賞与等の支払を命じたが、安全配慮義務違反に基づく損害賠償については棄却した。
参照法条 労働契約法第16条
体系項目 解雇 (民事)/3 解雇権の濫用
労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任
裁判年月日 令和2年4月15日
裁判所名 札幌高
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ネ)第295号
裁判結果 原判決変更
出典 労働判例1226号5頁
審級関係 上告、上告受理申立て(後、取下げ)
評釈論文 山下昇・法学セミナー66巻2号127頁2021年2月
佐藤有美・経営法曹209号21~31頁2021年9月
判決理由 〔解雇 (民事)/3 解雇権の濫用〕
(1)被控訴人としては、復職が可能であるとの主治医の判断を得ているとの申告を受けていたのであるから、本件診断書に基づいて控訴人が就労不能であるか否かを判断するというのであれば、本件診断書を作成したF医師に問い合わせをするなどして、本件診断書の趣旨を確認すべきであったといえるし、その確認が困難であったような事情も特にうかがわれない。そして、そのような確認がされていれば、同医師からは、控訴人において、小指に無理をかけないよう注意を払えば、慣れた作業や労作は可能である、小指が仕事に慣れるまで間は仕事量を減らすなどの配慮が必要である、包丁を使う作業等も慣れれば不可能であるとはいえないなどの回答が得られたものと考えられる。
 そうすると、製造部における作業が、冷たいタラコを日常的に取り扱うものであることや、頻回な手洗いが必要であることなど製造部における作業内容に関する諸事情を考慮しても、しばらくの間業務軽減を行うなどすれば、控訴人が製造部へ復職することは可能であったと考えられるところであり、本件解雇の時点において、控訴人が、製造部における作業に耐えられなかったと認めることはできない。なお、本件解雇の時点において、控訴人が被控訴人との雇用契約の本旨に従った労務を提供することが可能であったとは認められないとしても、慣らし勤務を経ることにより債務の本旨に従った労務の提供を行うことが可能であったと考えられるし、本件事故が被控訴人の業務に起因して発生したことを前提として控訴人が労災給付を受給していたことも踏まえると、かかる慣らし勤務が必要であることを理由として、控訴人に解雇事由があると認めることは相当でない。
(2)復職に向けた協議の中で、勤務時間や賃金等の具体的な条件の提示や控訴人との調整はなされていない。
 加えて、被控訴人は、控訴人に対し、清掃係への配置転換を拒否すれば解雇もあり得る旨を一切伝えておらず、製造部での業務に従事させることができない理由や、配置転換を受け入れなければならない理由等について十分な説明をしたこともうかがわれない。このような提案によって被控訴人が解雇回避努力を尽くしたものとみることはできない。
被控訴人としては、控訴人を解雇する可能性も視野に入れていながら、控訴人に対し、退職勧奨を行うこともなく症状固定のわずか約1か月後に本件解雇の意思表示がされたものである。そうすると、控訴人からすれば、一度も解雇を回避する選択の機会を与えられないまま、解雇されるに至ったというほかないものである。
(3)以上のとおり、控訴人が、本件解雇時点において、製造部における作業に耐えられなかったと認めることはできないし、被控訴人による解雇回避努力が尽くされたとも認められない。本件解雇は解雇権を濫用したものとして無効というべきである
〔労働契約 (民事)/労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任〕
(4)本件解雇は、解雇権を濫用したものとして無効というべきであるが、無効な本件解雇に至ったことについて被控訴人に何らかの不法行為等が成立し得るとしても、控訴人が雇用契約上の権利を有する地位にあることが確認され、賃金の支払請求が認められたことによっても慰謝されない精神的損害が控訴人に生じていることを認めるに足りる証拠はない。したがって、この点に関する控訴人の請求は理由がない。