全 情 報

ID番号 09361
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 トーカロ事件
争点 有期雇用労働者の均衡待遇
事案概要 (1) 本件は、被告(トーカロ株式会社)との間で期間の定めのある労働契約を締結し嘱託社員として働いていた原告が、Aコース正社員と業務の内容等が同一であったにもかかわらず、基本給及び賞与が正社員よりも低額であり、地域手当を支給されなかったことが改正前の労働契約法20条に違反するとして、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、Aコース正社員の各基本給、賞与及び地域手当の合計額と原告に支給された基本給との差額等の支払を求めた事案である。
(2) 判決は、原告の主張する労働条件の相違は、いずれも不合理であると評価することはできず、労契法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たらないとして、原告の請求を棄却した。
参照法条 労働契約法20条
体系項目 7 男女同一賃金、同一労働同一賃金
裁判年月日 令和2年5月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)4915号
裁判結果 棄却
出典 判例タイムズ1486号146頁
労働経済判例速報2429号26頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔7 男女同一賃金、同一労働同一賃金〕
(1)Aコース正社員の基本給は本人給及び職能給により構成され、Aコース正社員の賃金体系は、長期間の雇用が制度上予定され、雇用期間を通じた能力及び役割の向上が期待されているAコース正社員について、年齢に応じた処遇により長期雇用に対する動機付けを図るとともに、能力等に応じた処遇により意欲、能力等の向上を促すものということができる。他方、嘱託社員は、長期間の雇用が制度上予定されておらず、期待される能力や役割もAコース正社員より限定的であるから、上記賃金体系を採用することなく、契約期間ごとの合意によって基本給の額を決定することに一定の合理性がある。
(2)Aコース正社員と嘱託社員との間には、担当業務の範囲、期待される能力や役割、職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があること、長期雇用を前提とする無期契約労働者と短期雇用を前提とする有期契約労働者との間に異なる賃金体系を設けることには、企業の人事上の施策として一定の合理性があること、被告においては有期雇用社員の正社員への登用制度が存在し、76名が有期雇用社員から登用されるなど、同制度が実際にも機能しており、嘱託社員には同制度によって正社員との相違を解消する機会が与えられていることなどの事情を総合考慮すれば、Aコース正社員と嘱託社員との間の基本給についての相違は、不合理であると評価することはできないというべきである。
(3)Aコース正社員と嘱託社員との間には、職務内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があること、長期間の雇用が制度上予定され、雇用期間を通じた能力及び役割の向上が期待されているAコース正社員に対し、賞与額を手厚くして優秀な人材の獲得や定着を図ることは、人事上の施策として一定の合理性があること、Aコース正社員は、年度中に被告の業績が悪化した場合、賞与を不支給とされ又は嘱託社員よりも低額とされる可能性があり、嘱託社員の賞与に係る労働条件がAコース正社員に比して一方的に劣位にあるとは必ずしもいえないこと、嘱託社員には正社員への登用制度により正社員との相違を解消する機会が与えられていることなどの事情を総合すれば、Aコース正社員と原告を含む嘱託社員との間における賞与の相違(Aコース正社員平均約6.2か月分、嘱託社員3か月分)は、不合理であると評価することはできない。
(4)関東地区に在住するAコース正社員に支給されていた地域手当は、平成元年頃、労働者の需要が高まり、かつ、関東地区の家賃相場が他の地区より高額であったにもかかわらず、正社員の初任給の額を全国一律としていたことなどから、関東地区に勤務する正社員を確保することが困難であったため、将来に向けて安定的に正社員を確保する目的で導入されたものである。そうすると、地域手当は、初任給の額が全国一律であるという正社員固有の賃金制度に由来する問題を解消するための手当ということができる。これに対し、嘱託社員の賃金は、採用の目的等を勘案して個別決定され、家賃の高さその他の各嘱託社員の居住地域固有の事情を考慮して、採用した地区ごとに賃金額を決定することも可能である上、転勤も予定されていないことに照らせば、嘱託社員には、初任給額が全国一律であることから生じた関東地区における正社員の安定的確保という地域手当の支給に係る事情は妥当しない。
 以上に判示した地域手当導入の趣旨や労使交渉を経て同手当が廃止された経緯を総合すると、Aコース正社員と嘱託社員との間における地域手当の相違は、不合理であると評価することはできない。