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ID番号 09374
事件名 地位確認請求事件
いわゆる事件名 日本貨物検数協会(日興サービス)事件
争点 違法派遣の労働契約申込みなし
事案概要 (1) 本件は、日興サービス株式会社(以下「日興サービス」という。)の従業員である原告らが、被告(一般社団法人日本貨物検数協会)は、労働者派遣法及びこれが準用する労働基準法等の適用を免れる目的(以下「適用潜脱目的」ともいう。)で、かねてより日興サービスとの間で業務委託(船積貨物の積込又は揚陸を行うに際してするその貨物の箇数の計算又は受渡の証明を行う「検数」事業の委託)の名目で契約を締結し(いわゆる偽装請負)、労働者派遣契約を締結せずに原告らによる労働者派遣の役務の提供を受けていたから、労働者派遣法40条の6第1項5号に基づき、同条施行の平成27年10月1日以降、原告らに対して労働契約の申込みをしたものとみなされ、原告らも被告に対してこれを承諾する意思表示をしたと主張して、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認をそれぞれ求めた事案である。
(2) 判決は、被告が労働者派遣法40条の6第1項5号に該当する行為を平成28年3月31日まで行っていたことを認めた上で、原告らに係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みの効力は、労働者派遣法40条の6第2項に基づきそれから1年を経過する日である平成29年3月31日まで存続していたが、原告らの上記みなし申込みに対する承諾の意思表示は、その効力が存続する期間終了後の平成29年10月31日に行われたと判断し、申込みなし制度による労働契約の成立を否定し、原告の請求を棄却した。
参照法条 労働者派遣法40条の6第1項、2項
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/使用者/ (5) 派遣先会社
裁判年月日 令和2年7月20日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)5158号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1228号33頁
労働法律旬報1970号64頁 
審級関係 控訴
評釈論文 西川大史・民主法律時報567号7~8頁2020年9月
萬井隆令・労働法律旬報1970号35~46頁2020年10月25日
小宮文人・季刊労働法273号244~245頁2021年6月
山浦美卯・経営法曹208号73~82頁2021年6月
奥田香子・法学セミナー66巻4号121頁2021年4月
松井良和(労働判例研究会)・法律時報93巻9号152~155頁2021年8月
桑島良彰・労働法律旬報1989号40~45頁2021年8月10日
塩見卓也・民商法雑誌157巻3号119~129頁2021年8月
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/使用者/ (5) 派遣先会社〕
(1)労働者派遣法40条の6が定める労働契約の申込みみなし制度は、違法な労働者派遣の是正に当たって、派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるようにするため、同条1項各号に該当する行為が行われた場合、当該行為を行った時点において、労働者派遣の役務の提供を受ける者が派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなす制度であり、その趣旨は、善意無過失の場合を除き、違法な労働者派遣を受け入れた者にも責任があり、そのような者に民事的な制裁を科すことにより、労働者派遣法の規制の実効性を確保することにあるものと解するのが相当である(厚労省職業安定局長職発0930第13号平成27年9月30日「労働契約申込みみなし制度について」参照)。
(2)労働者派遣法40条の6第1項5号が定める労働者派遣法やこれが準用する労働基準法等の適用を免れる目的(適用潜脱目的)は、労働者派遣以外の名目で契約を締結したこと及び当該契約に基づき労働者派遣の役務の提供を受けていることの主観的な認識(悪意)又は認識可能性(過失)とは必ずしも同一ではなく、むしろ、このような形式と実質の齟齬により労働者派遣法等による規制を回避する意図を示す客観的な事情の存在により認定されるべきものと解するのが相当である。
(3)客観的な事情を総合すると、被告は、労働者派遣法及びこれが準用する労働基準法等の適用を免れる目的(適用潜脱目的)で、日興サービスとの間に業務委託契約を締結し、これにより労働者派遣の役務の提供を受けていたものであって、この適用潜脱目的は、労働契約の申込みみなし制度の施行(平成27年10月1日)後も、当該業務委託契約が終了する平成28年3月31日まで継続していたものと認められ、労働者派遣法40条の6第1項5号に該当する行為を行ったものと認められる。
(4)労働契約の申込みみなし制度は、違法な労働者派遣の是正に当たって、派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるようにすることを目的とするものであるところ、ここで労働者の希望を的確に反映するために、当該行為が行われた場合に労働者派遣の役務の提供を受けた者との間に直ちに労働契約を成立させるのではなく、その成立を労働者の承諾の意思表示に係らしめることで、労働者に対して派遣元との従前の労働契約の維持と派遣先との新たな労働契約の成立との選択権を付与したものであるといえる。そして、労働者派遣法40条の6第1項に基づくみなし申込みに対する承諾の意思表示は、このような選択権の行使の結果として派遣先との間に新たな労働契約を成立させるものであるから、通常の労働契約締結における承諾の意思表示と何ら異なるものではない。
(5)労働者がみなし申込みの存在を明確に認識せずに労働者派遣の役務の提供を受ける者に対して直接の雇用の要望を出すなどしたとしても、それは、労働者の自由な意思による上記選択権の行使と評価することはできず、むしろ、このような場合にまで労働契約の成立を認めることは、例えば派遣先の信用状態に問題があるなどの事情もあり得ることを考慮すると、労働者の希望を的確に反映したことになるとは限らない。
 原告らが所属する労働組合(全港湾名古屋支部)の各要求等をもって、派遣先である被告の原告らに対する労働契約のみなし申込みを受けて被告との間に新たに労働契約を締結させるためにされた承諾の意思表示と評価することはできない。
(6)被告が平成28年4月1日には日興サービスとの間で労働者派遣契約を発効させて従前の業務委託契約を終了させ、いわゆる偽装請負の状態を解消した以上、労働者派遣法40条の6第2項及び第3項によりこれから1年を経過した平成29年4月1日の到来をもって同条1項に基づくみなし申込みの効力は消滅した。