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ID番号 09384
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日本郵便(東京)事件
争点 有期雇用労働者の不合理な待遇
事案概要 (1) 本件は、第一審被告(日本郵便株式会社)の時給制契約社員として有期労働契約を締結している第一審原告ら(3人)が、第一審被告の正社員との間で、正社員と同一内容の業務に従事していながら、各労働条件(外務業務手当、年末年始勤務手当、早出勤務等手当、祝日給、夏期年末手当、住居手当、夏期冬期休暇、病気休暇、夜間特別勤務手当、郵便外務・内務業務精通手当)において相違があることが労働契約法20条に違反するとして、(ア)第一審被告の社員給与規程及び社員就業規則の各規定が第一審原告らにも適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、(イ)上記差異が同条の施行前においても公序良俗に反すると主張して、同条の施行前については、不法行為による損害賠償金等の支払いを求め、(ウ)同条の施行後については、①主位的に同条の補充的効力を前提とする労働契約に基づき正社員の諸手当との差額の支払いを求め、②予備的に不法行為による損害賠償金等の支払を求めた事案である。
(1)第一審判決(平成29年9月14日 東京地裁)は、第一審原告らの請求について、上記(ア)(イ)(ウ)の主位的請求を棄却し、(ウ)②の予備的請求のうち一部労働条件(年末年始勤務手当、住居手当、夏期冬期休暇、病気休暇)について不合理な相違があるとし、年末年始勤務手当、住居手当について不法行為に基づく損害賠償請求を認容し、夏期冬期休暇、病気休暇の相違については損害賠償請求をしていないとした。これに対し、第一審被告、第一審原告らが控訴した。
(2)第二審判決(平成30年12月13日 東京高裁)は、年末年始勤務手当、住居手当、夏期冬期休暇、病気休暇については不合理な相違があるとして、年末年始勤務手当、住居手当、病気休暇については不法行為に基づく損害賠償を命じ、夏期冬期休暇については損害額の主張立証がないとして損害賠償の請求を棄却した。その余の労働条件については不合理とは認められないとした。これに対し、第一審原告、第一審被告とも上告した。
(2)判決は、第二審判決中、第1審原告らの夏期冬期休暇に係る損害賠償請求を棄却した部分を破棄し、損害額について更に審理を尽くさせるため、同部分につき本件を原審に差し戻すとともに、第1審被告の上告及び第1審原告らのその余の上告を棄却した。
参照法条 労働契約法20条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/不合理な待遇差
裁判年月日 令和2年10月15日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(受)777号/令和1年(受)778号
裁判結果
出典 最高裁判所裁判集民事264号125頁
裁判所時報1754号2頁
審級関係
評釈論文 野川忍・季刊労働法271号104~116頁2020年12月
水口洋介・労働法律旬報1974号14~17頁2020年12月25日
和田肇・労働法律旬報1974号28~29頁2020年12月25日
大内伸哉・NBL1186号4~12頁2021年1月15日
森戸英幸・ジュリスト1553号4~5頁2021年1月
神吉知郁子(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1554号110~113頁2021年2月
桑村裕美子・月刊法学教室486号57~65頁2021年3月
安西愈・会社法務A2Z166号22~25頁2021年3月
水町勇一郎・中央労働時報1270号4~33頁2021年2月
平野瞬、永井寛之、市野秀樹・月報全青司490号2~8頁2021年2月
高仲幸雄・労働経済判例速報2429号2頁2020年12月10日
水町勇一郎・労働判例1228号5~32頁2020年11月15日
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/不合理な待遇差〕
(1)第1審被告における年末年始勤務手当は、郵便の業務を担当する正社員の給与を構成する特殊勤務手当の一つであり、12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであることからすると、同業務についての最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。また、年末年始勤務手当は、正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず、所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり、その支給金額も、実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。
 上記のような年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば、これを支給することとした趣旨は、郵便の業務を担当する時給制契約社員にも妥当するものである。そうすると、郵便の業務を担当する正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。
 したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で、同業務を担当する時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
(2)有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当であるところ、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である(最高裁平成30年(受)第1519号令和2年10月15日第一小法廷判決・公刊物未登載)。
 第1審被告において、私傷病により勤務することができなくなった郵便の業務を担当する正社員に対して有給の病気休暇が与えられているのは、上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように、継続的な勤務が見込まれる労働者に私傷病による有給の病気休暇を与えるものとすることは、使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。もっとも、上記目的に照らせば、郵便の業務を担当する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべきである。そして、第1審被告においては、上記時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされており、第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。そうすると、上記正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく、これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。
 したがって、私傷病による病気休暇として、郵便の業務を担当する正社員に対して有給休暇を与えるものとする一方で、同業務を担当する時給制契約社員に対して無給の休暇のみを与えるものとするという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
(3)第1審原告らに夏期冬期休暇を与えられないことによる損害が生じたとはいえないとする原審の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 第1審被告における夏期冬期休暇は、有給休暇として所定の期間内に所定の日数を取得することができるものであるところ、郵便の業務を担当する時給制契約社員である第1審原告らは、夏期冬期休暇を与えられなかったことにより、当該所定の日数につき、本来する必要のなかった勤務をせざるを得なかったものといえるから、上記勤務をしたことによる財産的損害を受けたものということができる。当該時給制契約社員が無給の休暇を取得したか否かなどは、上記損害の有無の判断を左右するものではない。
 したがって、郵便の業務を担当する時給制契約社員である第1審原告らについて、無給の休暇を取得したなどの事実の主張立証がないとして、夏期冬期休暇を与えられないことによる損害が生じたとはいえないとした原審の判断には、不法行為に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。
 以上によれば、原審の上記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決のうち第1審原告らの夏期冬期休暇に係る損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない。