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ID番号 09388
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 名古屋自動車学校(再雇用)事件
争点 再雇用後の労働条件
事案概要 (1) 本件は、自動車学校の経営等を目的とする被告(株式会社名古屋自動車学校)を定年退職した後に、有期労働契約を被告と締結して就労していた原告らが、期間の定めのない労働契約を被告と締結していた正職員との間に、労働契約法20条に違反する労働条件の相違がある旨主張して、主位的に職員の就業規則が適用されることを前提に本来支給されるべき賃金、賞与と実際に支給された賃金、賞与との差額等の支払い、労働契約法20条違反の労働条件の適用という不法行為に基づく損害賠償、慰謝料等の支払いを求めるとともに、予備的に労働契約法20条違反の労働条件の適用という不法行為に基づく損害賠償を、被告に対支払を求めた事案である。
(2)判決は、労働条件の相違は労働契約法20条違反の労働条件に当たるとして、不法行為の基づく損害賠償として、請求の一部を認容した。
参照法条 労働契約法20条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/不合理な待遇差
裁判年月日 令和2年10月28日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 平成28年(ワ)4165号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1233号5頁
労働経済判例速報2434号3頁
労働法律旬報1980号61頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 小西康之・ジュリスト1555号4~5頁2021年3月
仲松大樹・労働法律旬報1980号6~10頁2021年3月25日
石田眞・労働法律旬報1980号11~17頁2021年3月25日
山本陽大・労働法律旬報1980号18~26頁2021年3月25日
石田眞・労働法律旬報1980号27~44頁2021年3月25日
鈴木里士・労働経済判例速報2434号2頁2021年2月10日
仲松大樹・季刊労働者の権利340号81~85頁2021年4月
原昌登(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1562号126~129頁2021年9月
柳田忍・ビジネス法務21巻5号136~139頁2021年5月
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/不合理な待遇差〕
(1)基本給について
原告らは、被告を正職員として定年退職した後に嘱託職員として有期労働契約により再雇用された者であるが、正職員定年退職時と嘱託職員時でその職務内容及び変更範囲には相違がなく、原告らの正職員定年退職時の賃金は、賃金センサス上の平均賃金を下回る水準であった中で、原告らの嘱託職員時の基本給(月7万円強~8万円強)は、それが労働契約に基づく労働の対償の中核であるにもかかわらず、正職員定年退職時の基本給を大きく下回るものとされており、そのため、原告らに比べて職務上の経験に劣り、基本給に年功的性格があることから将来の増額に備えて金額が抑制される傾向にある若年正職員の基本給をも下回るばかりか、賃金の総額が正職員定年退職時の労働条件を適用した場合の60%をやや上回るかそれ以下にとどまる帰結をもたらしているものであって、このような帰結は、労使自治が反映された結果でもない以上、嘱託職員の基本給が年功的性格を含まないこと、原告らが退職金を受給しており、要件を満たせば高年齢雇用継続基本給付金及び老齢厚生年金(比例報酬分)の支給を受けることができたことといった事情を踏まえたとしても、労働者の生活保障の観点からも看過し難い水準に達しているというべきである。
 そうすると、原告らの正職員定年退職時と嘱託職員時の各基本給に係る金額という労働条件の相違は、労働者の生活保障という観点も踏まえ、嘱託職員時の基本給が正職員定年退職時の基本給の60%を下回る限度で、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
(2)皆精勤手当及び敢闘賞(精励手当)について
原告らは、嘱託職員として、正職員定年退職時より減額された皆精勤手当及び敢闘賞(精励手当)を支給されていたところ、これら賃金項目の支給の趣旨は、所定労働時間を欠略なく出勤すること及び多くの指導業務に就くことを奨励することであって、その必要性は、正職員と嘱託職員で相違はないから、両者で待遇を異にするのは不合理である旨主張する。
 上記原告らの主張は正当として是認できるから、皆精勤手当及び敢闘賞(精励手当)について、正職員定年退職時に比べ嘱託職員時に減額して支給するという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
(3)家族手当について
被告は、労務の提供を金銭的に評価した結果としてではなく、従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で家族手当を支給しているのであり、使用者がそのような賃金項目の要否や内容を検討するに当たっては、従業員の生活に関する諸事情を考慮することになると解される。そして、被告の正職員は、嘱託職員と異なり、幅広い世代の者が存在し得るところ、そのような正職員について家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由があるということができる。他方、嘱託職員は、正職員として勤続した後に定年退職した者であり、老齢厚生年金の支給を受けることにもなる。
 これらの事情を総合考慮すると、正職員に対して家族手当を支給する一方、嘱託職員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することはできず、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるということはできない。
(4)賞与について
原告らは、被告を正職員として定年退職した後に嘱託職員として有期労働契約により再雇用された者であるが、正職員定年退職時と嘱託職員時でその職務内容及び変更範囲には相違がなかった一方、原告らの嘱託職員一時金は、正職員定年退職時の賞与を大幅に下回る結果、原告らに比べて職務上の経験に劣り、基本給に年功的性格があることから将来の増額に備えて金額が抑制される傾向にある若年正職員の賞与をも下回るばかりか、賃金の総額が正職員定年退職時の労働条件を適用した場合の60%をやや上回るかそれ以下にとどまる帰結をもたらしているものであって、このような帰結は、労使自治が反映された結果でもない以上、賞与が多様な趣旨を含みうるものであること、嘱託職員の賞与が年功的性格を含まないこと、原告らが退職金を受給しており、要件を満たせば高年齢雇用継続基本給付金及び老齢厚生年金(比例報酬分)の支給を受けることができたことといった事情を踏まえたとしても、労働者の生活保障という観点からも看過し難い水準に達しているというべきである。
(5)嘱託規程が嘱託職員の労働条件につき、嘱託規程に定めのない事項は正職員就業規則等を準用する旨定めている規定は、嘱託規程において定めを置かなかった事項について、正職員就業規則等により補充することを予定した規定であり、本件のように、原告らと被告の間で行った嘱託職員としての労働条件に関する個別の合意の内容が私法上無効となる場合に正職員就業規則等を準用することを定めた規定とはいえない。
 そうすると、嘱託規程及び正職員就業規則等の解釈を通じて、嘱託職員時の原告らについても正職員就業規則等が適用され、労働契約に基づき差額賃金を請求することができる旨の原告らの上記主張を採用することはできない
(6)原告らに生じた財産的損害は賠償義務が履行されることによって回復されるものであり、これにより精神的損害も慰藉されるところ、それでもなお賠償すべき精神的損害があるとまでは認められない。