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ID番号 09517
事件名 地位保全等仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件
いわゆる事件名 プロバンク(抗告)事件
争点 労働契約成立の成否
事案概要 (1) 経営コンサルタント、不動産の売買、賃貸、管理及びその仲介等を目的とする株式会社プロバンス(相手方)は、令和3年8月、インターネット求人サービスを利用し、その求人サイトに「給与は月給46万1000円から53万8000円及び賞与年1回(10月)」などとした求人情報(以下「本件求人情報」といい、これが掲載されたサイトを「本件求人サイト」という。)を掲載した。抗告人は、本件求人サイトを通じて相手方の求人募集に申込みをし、同月20日、相手方本社において、相手方代表取締役Y氏による採用面接が実施され、面接終了後、抗告人は相手方の職員から、「給与及び手当は、月額総支給額40万円(45時間相応分の時間外手当を含む。)、賞与120万円(2022年10月に支給)」などとする採用内定通知書(以下「本件採用内定通知書」という。)の交付を受けた。抗告人は、同年10月1日、相手方代表取締役Y氏に対し、ショートメールで出社日を同月21日とすることを提案し、了承を得、同月7日、相手方本社において、相手方の職員から「賃金 月給30万2237円、時間外勤務手当9万7763円(時間外労働45時間に相当するもの)」等の記載がある労働契約書等の交付を受け、その内容等について説明されたが、労働契約書に署名押印して相手方に提出することなく、これを持ち帰った。抗告人は、同月21日、相手方本社に来社し、当該労働契約書の内容に関し、業務内容の「その他付随する業務」、月給の「302,237円」、退職金の「無」の記載を二重線と訂正印で削除するとともに、月給欄に「400,000円」と加筆したものに署名押印し、相手方に提出した。相手方の取締役本部長P氏は、抗告人に対し、労働契約書の修正理由等を確認したうえ、帰宅するよう伝え、翌22日、抗告人に対し、相手方が提示した給与条件について抗告人が了承できない以上、労働契約は締結されていない状態にあるという相手方の認識及び相手方が抗告人に提示した労働条件に基づく雇用契約の申込みを撤回する旨をメールで伝えた。
本件は、このような経緯を基に、抗告人が、相手方との間で労働契約が成立したとして、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めることを求めるとともに、月給及び賞与の仮払いを求める事案である。
原審は、抗告人と相手方との間には労働契約が成立したとは認められず、本件申立てに係る被保全権利の存在を認めるに足りる疎明はないとして、抗告人の申し立てを却下したため、これを不服として抗告人が即時抗告した。
(2)控訴審決定は、抗告人の仮処分命令申立てをいずれも却下した原決定は相当であって、本件抗告は理由がないから、これを棄却
参照法条 労働契約法1条
労働契約法6条
労働基準法15条
職業安定法5条の3
体系項目 労働契約 (民事) /成立
裁判年月日 令和4年7月14日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 決定
事件番号 令和4年(ラ)1212号
裁判結果 抗告棄却
出典 判例タイムズ1513号125頁
労働判例1279号54頁
労働経済判例速報2493号31頁
審級関係 確定
評釈論文 加守田枝里・労働判例1290号108~109頁2023年9月15日
小宮文人・季刊労働法284号210~211頁2024年3月
判決理由 〔労働契約 (民事) /成立 〕
(1)抗告人と相手方の間では、労働契約の締結に向けた交渉の過程で、賃金の額について合意できず、結局抗告人が就労するに至らなかったのであって、本件全資料によっても、「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うこと」(労働契約法6条)についての合意があったとは認められない。
 したがって、本件で労働契約が成立していないとすることが労働契約法1条及び6条に違反するとはいえず、抗告人の上記主張は採用できない。
(2)抗告人は、相手方が本件求人情報で当初明示した労働条件を採用面接の過程で変更したことになるが、職業安定法5条の3に規定する労働条件の変更の明示が適切に行われていないので、労働条件の変更がされていないことが推定され、当初明示された条件で労働契約が成立する旨主張する。
 しかし、本件求人情報の条件による労働契約が成立したとは認められないことは説示したとおりであり、職業安定法5条の3に規定する労働条件の変更の明示が適切に行われたか否かといった事情は、労働契約の成否に直接影響を及ぼさない。
 したがって、抗告人の上記主張は採用できない。
(3) 抗告人は、採用内定通知書は労働契約の成立を前提に交付されるものであるから、本件採用内定通知書の交付を新たな労働契約の申込みとみるのは相当ではなく、相手方の認識としても、採用面接において相手方から本件採用内定通知書記載の条件が提示され、抗告人がこれに応じていることは明らかであるとして、少なくとも本件採用内定通知書の条件で労働契約が成立している旨主張する。
 しかし、そもそも、抗告人は、採用面接において本件採用内定通知書記載の条件が提示されたことも、これに応じたことも否定する趣旨の主張をしているのであって、採用面接において本件採用内定通知書の条件で労働契約が成立したことの疎明があるとは到底認められない。
 したがって、抗告人の上記主張は採用できない。