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ID番号 09519
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 Man to Man Animo事件
争点 障害者に対する合理的配慮義務
事案概要 (1)高次脳機能障害及び強迫性障害を有する原告が、勤務先である被告(障害者の雇用促進、活躍の場の創出を前提とした事業として、ウエブ制作事業、行政受託事業及びデジタルアーカイブ(文書電子化)事業などを主な目的とする株式会社であり、障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」という。)44条の規定するいわゆる特例子会社)に対し、被告が原告の障害についての合理的配慮義務に違反すると主張して債務不履行に基づき500万円の損害賠償を求める事案である。 
(2)判決は、配慮義務に違反するとは認められないとして、原告の請求を棄却した
参照法条 障害者雇用促進法36条の5
体系項目 労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (24) 職場環境調整義務
裁判年月日 令和4年8月30日
裁判所名 岐阜地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)708号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1297号138頁
賃金と社会保障1829号21頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴(後、和解)
評釈論文 青木亮祐・帝京法学37巻1号37~51頁2023年10月
松岡太一郎・季刊労働法285号208~209頁2024年6月
常森裕介・季刊労働法286号178~184頁2024年9月
判決理由 〔労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (24) 職場環境調整義務〕
(1)被告は、障害のある原告を雇用するにあたり、原告の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じる義務を負い、その具体的な内容は、以下のとおりである。
ア 〈1〉指示は一度に2つまでにすること、〈2〉服装の自由を認める(運動靴しか履けない、スーツやブラウスが着られない)こと、〈3〉指令者を1人にすること、〈4〉新しい仕事は一日1つまでにすること、〈5〉原告に強迫性障害があるためトイレに時間がかかること。
イ 〈1〉一度に2つの情報を入れないこと、〈2〉一度に指示をする場合は、手順を番号で伝えること、〈3〉脳疲労を感じたら休憩させること、〈4〉オフィスルームのレイアウト替えや席替え、指示者の変更など、原告に関わることで原告の職場環境が変わることがあれば、事前に原告に連絡すること。(以下「ア〈1〉の配慮」などという。)
(2)被告が、 (1)記載の配慮義務を負っていたことについては、履物の点を除き、当事者間に争いはない。
 障害者雇用促進法にいう障害者とは「身体障害、知的障害、精神障害、その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制約を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。」(同法2条)とされている。原告の場合、「身体障害、知的障害、精神障害、その他の心身の機能の障害」は、高次脳機能障害及び強迫性障害をいうと解されるところ、「腰を痛めている」ことは、高次脳機能障害及び強迫性障害によりもたらされたものとは直ちに認められないから、腰を痛めていることにより履物に関して配慮を求めることが、障害者雇用促進法の求める合理的配慮の対象になるとは直ちに解されない。もっとも、原告は、入社当初から、履歴書にも履物に関する配慮を求める旨を記載し、運動靴しか履けない旨を申し出ており、被告も、これを認識して原告を雇用したと認められるから、本件においては、履物に対する配慮は、障害者雇用促進法の求める合理的配慮に準じるものとして扱うのが相当である。
(3)原告の雇用主である被告が障害者である原告に対して自立した業務遂行ができるように相応の支援、指導を行うことは、許容されているというべきであり、このような支援、指導があった場合は、原告は、業務遂行能力の向上に努力すべき立場にあるというべきである。よって、被告が、原告の業務遂行能力の拡大に資すると考えて提案(支援、指導)した場合については、その提案(支援、指導)が、配慮が求められている事項と抵触する場合であっても、形式的に配慮が求められている事項と抵触することのみをもって配慮義務に違反すると判断することは相当ではなく、その提案の目的、提案内容が原告に与える影響などを総合考慮して、配慮義務に違反するか否かを判断するのが相当である。