ID番号 | : | 09520 |
事件名 | : | 損害賠償等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 巖本金属事件 |
争点 | : | 長時間の叱責等による精神障害の発生に係る不法行為責任 |
事案概要 | : | (1)本件は、製鋼原料の製造販売、鋼材の販売、故鉄、非鉄金属その他スクラップの売買等を業とする巖本金属株式会社(被告)の従業員である原告が、恒常的に長時間労働を課せられた上、平成27年9月7日には、上司ら8名との会議で同人らから長時間にわたって一方的に叱責されたこと等により、うつ状態に陥り、その症状が憎悪したなどと主張して、被告に対し、不法行為責任又は債務不履行責任(労働契約上の安全配慮義務違背)に基づき、原告に生じた損害のうち、令和3年7月27日までの休業損害及び入通院慰謝料(後遺障害に伴う損害を除く。)の支払を求めた事案である (2)判決は、原告の請求(後遺障害に伴う損害を除く。)のうち、被告の不法行為責任に基づき770万0787円及び支払済みまで利息の支払いを認容し、その余の請求は棄却した。 |
参照法条 | : | 民法第709条 |
体系項目 | : | 労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 令和4年8月31日 |
裁判所名 | : | 京都地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和2年(ワ)2329号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任〕 (1)原告は、平成27年5月当時、本件工場内において、いわゆるガス切りに従事していたところ、同月半ばから8月半ばにかけて、その時間外労働は連続して月90時間を超え、月100時間を超えることもあったというのであり、さらに、上記期間中、3度にわたり、13日間連続して業務に服することもあったというのである。 このような夥しい時間外労働・連続勤務の実態に照らすと、これらが原告の心身に負荷をかけ、それが蓄積する状況にあったことが容易に認められ、他方、被告側としても、労務管理を担う者として、このような実態を把握していたものというべきである。 (2)平成27年9月3日の本件工場計量場における原告の顧客対応が被告側に問題視され、叱責されたりしたことがあったというのであり、当時、原告がその事実関係を否定していなかったことからすると、上記被告側の対応自体それなりの必要性があったことは否めない。 しかしながら、原告の上記顧客対応について、叱責等にとどまらず、原告は、平成27年9月7日の勤務時間終了後、再度本件工場に赴いて、本件工場長ら8名の役職者で構成された自身の処遇等に関する会議に出席するよう求められた上、本件副部長からは人格を否定するような発言をもって自身の評価を問われる状態に置かれたというのである。しかも、被告側出席者の意思統一が図られないまま、少なくとも3時間半を超えて、原告の処遇を巡り、原告の面前において、被告側から、原告の人格を否定するような発言も含め、使用者側としては通常有り難いやり取りが行われ、それも二転三転するに至り、果ては、本件工場長からは、原告を本件工場では受け入れることはできないとの通告も示され、その後、原告に対し、同月8日付けでガス切り業務から運転業務に業務切替えを行ったというのである。 (3)過重な時間外労働の連続下、長時間に及ぶ本件会議が開催され、原告の面前でその処遇を巡って、およそ使用者としては、通常有り難いやり取りが交わされ、業務切替えに及び、その直後の平成27年9月8日以降、原告に多彩な精神症状が発症し、投薬・精神療法、さらには入院治療にもかかわらず、次第に、原告の精神を蝕み、遷延化していったというもので、そのため原告の症状の回復過程も緩やかなものとなり、遅くとも平成31年2月4日には、それらの症状が固定し、以後なおこれが残存しつつも、フルタイムの復職に至ったということができる。 そうすると、過重な時間外労働の連続下にあった原告の面前において、その処遇を巡る本件会議での被告側の長時間に及ぶ拙劣な対処の在り方と原告の精神症状の惹起、通院及び入院治療を要するうつ状態等の継続、さらには平成31年2月5日のフルタイム復職後の残存症状との間に相当因果関係があるというべきである。 (4)以上の次第で、被告は、原告に対し、その労務の提供を求めるに当たっては、その心身の健康を損なうことがないよう注意する義務があったのに、これに違反したといわなければならず、不法行為責任に基づき、原告に生じた損害を賠償する責任がある。 |