全 情 報

ID番号 09521
事件名 分限免職処分取消請求事件
いわゆる事件名 長門市・市消防長事件
争点 懲戒処分の有効性
事案概要 (1) 本件は、上告人(長門市)の消防職員であった被上告人が、任命権者である長門市消防長(以下「消防長」という。)から、部下への暴行、暴言、卑猥な言動及びその家族への誹謗中傷を繰り返し、職場の人間関係及び秩序を乱したなどを理由に地方公務員法28条1項3号等の規定に該当するとして分限免職処分(以下「本件処分」という。)を受けたのを不服として、上告人を相手に、その取消しを求める事案である。
 一審判決(山口地裁:2021年4月14日)は上告人に免職を相当とするほどの適格性の欠如があるとまでは認められないなどとして本件処分を違法としたため、これを不服として上告人が控訴した。
 控訴審判決(広島高裁:2021年9月30日)も、被上告人を分限免職処分とするのは重きに失するというべきであるなどとして本件処分を違法であるとしたため、上告人が上告した。
(2)判決は、本件処分が違法であるとした原審の判断には、分限処分に係る任命権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原審判決は破棄を免れない。そして、事実関係等の下においては、本件処分にその他の違法事由も見当たらず、被上告人の請求は理由がないから、第1審判決を取り消し、同請求を棄却すべきであるとして、本件処分を有効とした。
参照法条 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2
地方公務員法28条
体系項目 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/ (7) 暴力・暴行・暴言
裁判年月日 令和4年9月13日
裁判所名 最高裁三小
裁判形式 判決
事件番号 令和4年(行ヒ)第7号
裁判結果 破棄自判
出典 最高裁判所裁判集民事269号21頁
判例時報2547号93頁
判例タイムズ1504号13頁
金融・商事判例1663号7頁
金融・商事判例1664号24頁
労働判例1277号5頁
労働経済判例速報2507号3頁
判例地方自治496号62頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係
評釈論文 河津博史・銀行法務2166巻13号67頁2022年11月
和田一郎・労働経済判例速報2507号2頁2023年4月10日
本久洋一・労働法律旬報2033号51~52頁2023年6月10日
岩出誠(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1584号132~135頁2023年5月
加藤新太郎・NBL1245号124~127頁2023年7月1日
高畑柊子・民商法雑誌159巻4号45~50頁2023年10月
江原勲、榎本洋一・判例地方自治503号4~8頁2023年11月
戸谷雅治・季刊労働法283号188~189頁2023年12月
河合塁(労働判例研究会)・法律時報96巻1号140~143頁2024年1月
白石浩亮・経営法曹218号36~43頁2023年12月
深澤龍一郎・判例評論780号(判例時報2579)113~118頁2024年3月1日
判決理由 〔 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/ (7) 暴力・暴行・暴言 〕
 原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 地方公務員法28条に基づく分限処分については、任命権者に一定の裁量権が認められるものの、その判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものである場合には、裁量権の行使を誤った違法のものであることを免れないというべきである。そして、免職の場合には公務員としての地位を失うという重大な結果となることを考えれば、この場合における判断については、特に厳密、慎重であることが要求されるものと解すべきである(最高裁昭和43年(行ツ)第95号同48年9月14日第二小法廷判決・民集27巻8号925頁参照)。
 (2) 本件各行為は、5年を超えて繰り返され、約80件に上るものである。その対象となった消防職員も、約30人と多数であるばかりか、上告人の消防職員全体の人数の半数近くを占める。そして、その内容は、現に刑事罰を科されたものを含む暴行、暴言、極めて卑わいな言動、プライバシーを侵害した上に相手を不安に陥れる言動等、多岐にわたる。
 こうした長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れた被上告人の粗野な性格につき、公務員である消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることが不合理であるとはいえない。また、本件各行為の頻度等も考慮すると、上記性格を簡単に矯正することはできず、指導の機会を設けるなどしても改善の余地がないとみることにも不合理な点は見当たらない。
 さらに、本件各行為により上告人の消防組織の職場環境が悪化するといった影響は、公務の能率の維持の観点から看過し難いものであり、特に消防組織においては、職員間で緊密な意思疎通を図ることが、消防職員や住民の生命や身体の安全を確保するために重要であることにも鑑みれば、上記のような影響を重視することも合理的であるといえる。そして、本件各行為の中には、被上告人の行為を上司等に報告する者への報復を示唆する発言等も含まれており、現に報復を懸念する消防職員が相当数に上ること等からしても、被上告人を消防組織内に配置しつつ、その組織としての適正な運営を確保することは困難であるといえる。
 以上の事情を総合考慮すると、免職の場合には特に厳密、慎重な判断が要求されることを考慮しても、被上告人に対し分限免職処分をした消防長の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものであるとはいえず、本件処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるということはできない。そして、このことは、上告人の消防組織において上司が部下に対して厳しく接する傾向等があったとしても何ら変わるものではない。