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ID番号 09522
事件名 無期転換逃れ地位確認請求控訴事件
いわゆる事件名 日本通運(川崎・雇止め)事件
争点 無期転換逃れの雇止め
事案概要 (1)本件は、被控訴人(日本通運株式会社)との間で1年間の有期雇用契約(同契約には、最初の雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはない旨の条項が付されていた。)を締結し、4回目の契約更新を経て勤務していた控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が当初の雇用契約から5年の期間満了に当たる平成30年6月30日付けで控訴人を雇止めしたことについて、〈1〉上記条項は労働契約法18条の無期転換申込権を回避しようとするもので無効であり、控訴人には雇用継続の合理的期待があった、〈2〉同雇止めには客観的合理性、社会通念上の相当性が認められないなどと主張し、被控訴人による雇止めは許されないものであるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同契約に基づく賃金請求権に基づき、上記雇止め後の賃金等の支払を求める事案である。
 原判決(横浜地裁川崎支部)は、雇止めを有効と認め、控訴人の請求を棄却したため、控訴人は、原判決の全部を不服として控訴した。
(2)判決は、控訴人の請求はいずれも理由がないと判断し、控訴を棄却した。
参照法条 労働契約法18条
体系項目 解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
裁判年月日 令和4年9月14日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 判決
事件番号 令和3年(ネ)1941号
裁判結果 控訴棄却
出典 労働判例1281号14頁
労働法律旬報2028号49頁
審級関係 上告受理申立て
評釈論文 小山敬晴・労働法律旬報2028号38~39頁2023年3月25日
橋本陽子・ジュリスト1580号4~5頁2023年2月
米津孝司・労働判例1285号5~17頁2023年6月15日
高橋賢司・季刊労働法281号222~223頁2023年6月
米津孝司・労働判例1286号5~16頁2023年7月1日
林健太郎(労働判例研究会)・法律時報95巻13号268~271頁2023年12月
冨岡俊介・経営法曹218号90~98頁2023年12月
判決理由 〔解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕
(1)労働契約法一八条の規定は、有期労働契約が反復更新され、長期間にわたり雇用が継続する場合においては、雇止めの不安があることによって、年次有給休暇の取得など労働者の正当な権利行使が抑制される問題が生じることなどを踏まえ、有期労働契約が五年を超えて反復更新された場合は、有期雇用労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約に転換する仕組みを設けることによって、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図ることを目的とするものと解される。他方で、同条の規定が導入された後も、五年を超える反復更新を行わない限度において有期労働契約により短期雇用の労働力を利用することは許容されていると解されるから、その限度内で有期労働契約を締結し、雇止めをしたことのみをもって、同条の趣旨に反する濫用的な有期労働契約の利用であるとか、同条を潜脱する行為であるなどと評価されるものではない。
 もっとも、五年を超える反復更新を行わない限度で有期労働契約を利用することが同条に反しないとしても、同法一九条による雇止めの制限が排除されるわけではないから、有期労働契約の反復更新の過程で、同条各号の要件を満たす事情が存在し、かつ、最終の更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、同条により、労働者による契約更新の申込みに対し、使用者が従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で承諾したものとみなされ、その結果、労働契約が通算五年を超えて更新されることとなる場合には、有期雇用労働者は、同法一八条の無期転換申込権を取得することとなると解される。
(2)労働契約法一八条の趣旨は上記(1)において説示したとおりであって、五年を超える反復更新を行わない限度において有期労働契約を利用することは許容されており、上記の限度内で有期労働契約を締結し、その契約内容に従い、期間満了により契約が終了したものと扱う(更新を拒絶する)ことが、そのことのみをもって制限されているわけではないから、同条所定の五年の期間は試用期間的なものとして定められたものであって使用者に更新しない自由を与えたものではないとか、同条所定の無期転換申込権の発生回避のための雇止め行為は許されないとの法規範が存在するとまでいうことはできず、控訴人の主張は、採用することができない。
 そして、有期労働契約において、更新の上限を明記し、それ以降は更新しない旨の不更新条項を定めること自体について、労働契約法一九条二号の適用を回避・潜脱するものであって許容されないと解すべき根拠がないことは上記(1)のとおりである。また、五年を超える反復更新を行わない限度で有期労働契約の締結及び更新をする場合には、労働者は、同法一八条に基づく無期転換申込権を取得することはない(同法一九条が適用される事情がある場合に、同条に基づき五年を超えて労働契約が更新される結果、一八条が適用されてこれを取得する場合があるにすぎない。)ことは上記(1)のとおりであるから、有期労働契約中に更新上限の定めをすることが、無期転換申込権の事前放棄に当たるとか、それと同視し得るという控訴人の主張も、前提を欠くものというべきである。したがって、これらの事情から本件不更新条項等が公序良俗に反する旨の控訴人の主張も、採用することができない。
(3)五年を超える反復更新を行わない限度で有期雇用を利用することが労働契約法一八条によっても許容されていることは上記(1)のとおりであり、上記文書は、被控訴人として、法律上許容された範囲内で今後の雇用管理をするとの方針を示したものであると解されるところであって、そのような雇用管理の在り方は、同条の規定を潜脱するものとはいえないし、控訴人のその余の主張を考慮しても、本件雇止めが「無期転換阻止のみを狙ったとしかいい難い不自然な態様で行われる雇止め」に当たるということはできない。
(4)本件不更新条項等は、控訴人が労働条件や契約更新について何らかの期待を形成する以前である、本件雇用契約の締結当初から明示されていたものであり、しかも、本件雇用契約書及び説明内容確認票の各記載内容によれば、本件雇用契約の雇用期間は五年を超えない条件であることは一義的に明確であること、C課長は川崎支店において控訴人と面談し、控訴人に対し、そのことを明示・説明したこと、控訴人も本件不更新条項等の存在を十分認識して契約締結に至ったものであり、本件雇用契約の締結に際し、契約の更新に関して控訴人の正当な信頼・期待に反する条件を押し付けられたなど、自由な意思に基づかないで合意がされたとの事情があったとはいい難いし、ましてや、控訴人に、契約更新についての合理的期待が生じていたと認めるに足りる証拠はない。