全 情 報

ID番号 09523
事件名 懲戒処分無効確認請求事件
いわゆる事件名 学校法人常磐大学事件
争点 パワハラに対する停職処分の有効性
事案概要 (1)本件は、学校法人である被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、被告の設置する短期大学(以下「本件大学」という。)の教授として勤務していた原告が、本件大学の複数の教員や学生に対するハラスメント行為があったことを理由に被告から停職1年間(令和2年6月1日から令和3年5月31日まで)の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)を受けたことについて、当該処分が懲戒権を濫用した無効なものであると主張して、被告に対し、同処分の無効確認を求めるとともに、雇用契約に基づき、未払の賃金、賞与等の支払を求める事案である。
(2)判決は、本件懲戒処分は無効であるとし、原告は、停職期間とされた令和2年6月1日から令和3年5月31日までの1年間においても賃金請求権を失わないとした上で賃金額については、解雇がなければ確実に支払われることが見込まれる限度でこれを認めた。
参照法条 労働契約法16条
体系項目 懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用
裁判年月日 令和4年9月15日
裁判所名 水戸地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(ワ)362号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 判例時報2565号86頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用〕
(1)被告において、1年間の停職は、本件就業規則で定められている停職期間の上限であり、懲戒解雇、諭旨解雇に次いで重い懲戒処分ということができ、これにより労働者は停職期間である1年間給与の支給を受けられないことになり、解雇に匹敵するような重大な影響を与えることから、そのような重大な懲戒処分が正当化されるには、それに見合うような事由が存在することを要するものと解される。
 そして、パワハラが、暴力行為や暴言のように明らかに違法行為に当たる場合であればともかく、本件大学の教員や学生に対する指導等として過剰ないし不相当であるなどの程度に止まるものであれば、それを指導・注意して改善の機会を与えて、それにもかかわらず改善が見られないような場合にはじめて重大な処分に及ぶことが正当化されるというべきである。
(2)本件において、教員Aが、平成28年の1年間に5人の学生と保護者から原告に関する訴えがあったため、当時の副学長同席の下、原告に対し、その旨を伝えて注意喚起をしたことが認められるが、この際、原告に対し、具体的にどのような指導・注意をしたかまでは明らかでない。また、その他の機会に、原告に対して個別に教員や学生に対する指導等につき指導・注意したとは認められない。そうすると、従前、原告に対して教員や学生に対する指導等につき改善を要する旨の指導・注意が十分にされていたということはできない。
 これに加えて、従前、原告に対して譴責や減給等のより軽微な懲戒処分やそれに満たない訓告等がされたこともなかったにもかかわらず、突如として1年間の停職という重大な懲戒処分をすることは、原告に対する不意打ちであり、合理性を欠くものと言わざるを得ない。
(3)以上によれば、仮に本件就業規則73条3号の定める懲戒事由が認められるとしても、本件懲戒処分につき、客観的合理的理由ないし社会的相当性があるとは認められない。