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ID番号 09526
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 東横イン事件
争点 安全配慮義務違反のうつ病発症
事案概要 (1)本件は、ホテルの経営等を目的とする会社である被告(株式会社東横イン)に、平成27年1月27日から正社員として雇用されている原告が、平成31年3月29日に開業予定の本件ホテルDの経理担当支配人補佐として勤務し、法定労働時間を超える長時間の時間外労働等により、過度な精神的負担を被ってうつ病に罹患したと主張して、被告に対し、労働契約上の債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、損害金1875万5898円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(2)判決は、原告の主張を認め、被告に対し安全配慮義務違反による債務不履行によって生じた損害金875万5898円及び遅延損害金の賠償を命じた。
参照法条 労働契約法5条
労働施策総合推進法30条の2
体系項目 労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任〕〔労働契約 (民事)/ 労働契約上の権利義務/ (24)職場環境調整義務(パワーハラスメント)
裁判年月日 令和4年9月29日
裁判所名 名古屋地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(ワ)5528号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文 ハラスメント判例研究会・法律のひろば76巻4号112~115頁2023年4月
判決理由 〔労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任〕
(1)原告が大規模店舗である本件ホテルDの支配人に次ぐ地位の経理担当支配人補佐に就任し、本件ホテルDの主要な開業準備が集中的に行われた平成31年3月の時点においては、同月における時間外労働時間(27日間で約127時間)、同月に新たに加わった原告の職位上の責任の重さ及び業務の内容を総合すると、原告の業務負担が質的及び量的に特に過重な状態となっていたものと認められ、その業務による心理的負荷の程度は、うつ病発症のおそれがある強い状態に至っていたということができる。
〔労働契約 (民事)/ 労働契約上の権利義務/ (24)職場環境調整義務(パワーハラスメント)〕
(2)E支配人は、上記のとおり原告の業務負担の過重な状態が継続していた中で、平成31年3月16日以降、複数回にわたり、原告の勤務態度等について指摘する内容のメッセージ(①原告の休日に800字を超える文章により、原告の勤務態度に問題があることを指摘する内容を含むメッセージを送信、②深夜、原告に対し、予約変更手続の際に既存の予約を取り消すのを失念するミスについて、「嘘をついたのですか?」「満室手当がでなくなったフロント従業員全員に自分で1人あたり2500円を支払うか?」などの表現を含む原告を非難する内容のメッセージ)を送信しているところ、メッセージの内容自体、長文で原告を厳しく非難する表現を含むものである上、その態様も、業務時間外に複数回にわたって送信するというものであることに照らすと、上記メッセージを受信したことによって生じた原告の心理的負荷の程度は軽視できないものであったといわざるを得ない。
(3)被告は、全国に多数のホテルを営業し、過去に多数の新店舗の開業を経験していたことや、本件ホテルDは被告が過去に開業したホテルと比較しても特に規模の大きいホテルであったこと、同月に原告が本件ホテルDの経理担当支配人補佐に就任し、本件ホテルDの主要な開業準備を同月中に集中的に行わなければならない状態にあったことに照らすと、本件ホテルDの開業準備に際し、原告の業務が上記のとおり過重な状態となることを認識し得たものと認められる。
 したがって、被告は、平成31年3月の時点で、原告に対し、原告との間の労働契約に基づく安全配慮義務として、本件ホテルDの開業準備等によって原告に過重な業務負担が生じないように業務の時間及び内容を適切に管理すべき義務を負っていたというべきである。そうであるにもかかわらず、被告は、従業員の労務管理をE支配人の広範な裁量にゆだねて、上記義務の履行に必要な対応を取ることなく、同月27日まで原告に過重な業務を継続させたのみならず、その間、E支配人によるメッセージの送信によって原告に更なる心理的負荷を生じさせたのであるから、上記義務に違反したというのが相当である。