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ID番号 09527
事件名 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 家政婦兼訪問介護ヘルパー過労死事件/国・渋谷労働基準監督署長(山本サービス)事件
争点 介護業務、家事業務に従事する労働者の業務上外
事案概要 (1)本件は、訪問介護事業及び家政婦紹介あっせん事業等を営む株式会社に家政婦兼訪問介護ヘルパーとして登録されていたB(以下「亡B」という。)が死亡したことにつき、亡Bの夫である原告が、亡Bは、7日間にわたり要介護者C宅に住み込み、訪問介護ヘルパーとして訪問介護サービス業務に従事したほか、家政婦として家事及び介護業務に従事するなど24時間対応を要する過重な業務に就いたことに起因して勤務終了日後ほどなく急性心筋梗塞又は心停止を発症し、死亡したとして、渋谷労働基準監督署長に対し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を請求したところ、同労働基準監督署長が亡Bについては労働基準法116条2項所定の「家事使用人」に該当するので労働基準法及び労働者災害補償保険法は適用されないという理由で上記の保険給付をいずれも不支給とする処分をしたことから、被告に対し、上記の各処分には違法があると主張して、その取消しを求める事案である。なお、被告は、本件訴訟において本件各処分が適法であることの理由として本件疾病に業務起因性がないという理由を追加した。
(2)判決は、家事業務については業務起因性については検討の対象にはならないとし、介護業務については、短期間の過重業務や長期間の過重業務に就労していたとは認められないとして、原告の請求は棄却した。
参照法条 労働基準法116条2項
民事訴訟法 247条
体系項目 労災補償・労災保険/業務上・外認定/ (2) 業務起因性
裁判年月日 令和4年9月29日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(行ウ)89号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1285号59頁
賃金と社会保障1824号46頁
労働法律旬報2041号69頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 控訴
評釈論文 河合塁・賃金と社会保障1824号37~45頁2023年4月25日
明石順平・季刊労働者の権利350号71~79頁2023年4月
水町勇一郎・ジュリスト1578号4~5頁2022年12月
根岸忠・速報判例解説〔32〕――新・判例解説Watch〔2023年4月〕(法学セミナー増刊)287~290頁2023年4月
判決理由 〔労災補償・労災保険/業務上・外認定/ (2) 業務起因性〕
(1)亡BはC宅に住み込んで家政婦としての家事業務(本件家事業務)及び訪問介護ヘルパーとしての訪問介護サービスに係る業務(本件介護業務)を提供していたところ、上記の業務のうち本件介護業務については本件会社の業務として提供されていたものといえるが、本件家事業務については亡BとCの息子との間の雇用契約に基づいて提供されていたものといえるから、これを本件会社の業務であると認めることはできないといわざるを得ない。
(2)本件各申請は、亡Bが本件会社に雇用された労働者であることを前提に、本件会社の業務に起因して亡Bが本件疾病を発症して死亡したとして遺族補償給付及び葬祭料の支給を求めるものであるところ、上記のとおり、本件介護業務との関係では亡Bは本件会社と雇用契約を締結した労働者であり、労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当するものとは認められないのであるから、処分行政庁が、本件各申請について、亡Bが労基法116条2項の「家事使用人」に該当することのみを理由に本件各処分を行ったことについては、同規定の適用を誤った違法があるものといわざるを得ない。したがって、原告の上記主張は、その限度において理由があるというべきである。ただし、被告は本件訴訟において処分理由を追加しているので、本件各処分が取り消されるべきものであるか否かは更に検討する。
(3)本件各申請は、亡Bにつき本件会社の業務に起因する労働災害について遺族補償給付及び葬祭料の支給を求める請求であるところ、亡BがC宅において従事していた業務のうち本件家事業務に関する部分は本件会社の業務ではないと認められるから、当該業務と本件疾病の発病との間の業務起因性については検討の対象にはならないといわざるを得ない。
(4)本件疾病の発症前おおむね1週間の間の亡Bの本件介護業務に係る総勤務時間は、168時間の拘束時間のうちの31時間30分にとどまることになり、その業務時間、業務量が特に過剰であったとか、著しい疲労の蓄積をもたらすものであったとは認め難く、認定基準に即してみても、亡Bが短期間の過重業務や長期間の過重業務に就労していたとは認められない。