ID番号 | : | 09528 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 大器キャリアキャスティングほか1社事件 |
争点 | : | 兼業等による長時間労働の安全配慮義務 |
事案概要 | : | (1)控訴人(一審原告)は、セルフ方式による24時間営業の給油所において、主に深夜早朝時間帯での就労をしていた者である。給油所を運営するA株式会社(以下「A社」という。)は、深夜早朝時間帯における給油所の運営業務を大器株式会社に委託していたところ、同社は、その業務を被控訴人大器キャリアキャスティング株式会社(以下「大器CC」という。)に再委託した。控訴人は、同給油所において、被控訴人大器CCとの労働契約に基づき、深夜早朝時間帯での就労をしていたが、その後、A社とも労働契約を締結し、被控訴人大器CCでの就労に加えて、A社との労働契約に基づき、週一、二日、深夜早朝以外の時間帯にも就労するようになった。控訴人は、被控訴人大器CC及びA社を吸収合併した被控訴人株式会社ENEOSジェネレーションズ(以下「ENEOS」という。)に対し、概要以下のとおり、(1)ないし(4)の各請求をしている(なお、本項において、A社を含めて「被控訴人ENEOS」といい、被控訴人ENEOSと被控訴人大器CCを併せて「被控訴人ら」という。また、次項以降においても、同様の略称を用いることがある。)。 主位的請求として、?被控訴人大器CCとの労働契約の期間満了による雇止めが無効であると主張して、被控訴人大器CCに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求をするとともに、?控訴人の長時間の労働時間の軽減等をすべき注意義務があったのにこれを怠ったこと、被控訴人大器CCの従業員が控訴人にしたパワーハラスメントに適切に対処すべき義務があるのにこれを放置したことのいずれもが不法行為であり、被控訴人大器CCと被控訴人ENEOSは共同不法行為による損害賠償、?被控訴人大器CCが控訴人との労働契約について、契約期間満了による雇止めをしたことは違法であり、これにより控訴人が精神的苦痛を被ったと主張して、被控訴人大器CCに対し、不法行為に基づく損害賠償など 予備的請求として、?被控訴人大器CCに対し、不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償、?被控訴人ENEOSは控訴人の連続かつ長時間労働を把握し又は把握し得たのであるから控訴人の労働時間の軽減等をすべき労働契約上の安全配慮義務があったところ、これを怠ったと主張して、被控訴人ENEOSに対し、債務不履行に基づく(不法行為に基づく請求はしない。)損害賠償などを請求した。 一審判決(大阪地裁)は、控訴人のいずれの請求も棄却した。このため、これを不服として控訴人が控訴を提起した。 (2)判決は、被控訴人大器CCに対して長時間の連続勤務を是正しなかった点で安全配慮義務違反の債務不履行が認められるとして、4割の過失相殺を認めた上で434万8831円の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を命じ、控訴人のその余の請求は棄却した。 |
参照法条 | : | 民法415条 民法623条 労働契約法3条 労働契約法5条 労働契約法19条 労働基準法32条 労働基準法35条 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2 |
体系項目 | : | 労働時間 (民事)/ 4 労働時間の通算 解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め) |
裁判年月日 | : | 令和4年10月14日 |
裁判所名 | : | 大阪高裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和3年(ネ)2534号 |
裁判結果 | : | 原判決一部変更、控訴一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1283号44頁 |
審級関係 | : | 確定 |
評釈論文 | : | 小西康之・ジュリスト1581号4~5頁2023年3月 神吉知郁子(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1591号142~145頁2023年12月 池邊祐子・経営法曹218号130~136頁2023年12月 |
判決理由 | : | 〔労働時間 (民事)/ 4 労働時間の通算〕 (1)被控訴人大器CCは、控訴人との間の労働契約上の信義則に基づき、使用者として、労働者が心身の健康を害さないよう配慮する義務を負い、労働時間、休日等について適正な労働条件を確保するなどの措置を取るべき義務(安全配慮義務)を負うと解されるところ、控訴人は被控訴人ら両名との間の労働契約に基づいて、157日という長期間にわたって休日がない状態で、しかも深夜早朝の時間帯に単独での勤務をするという心理的負荷のある勤務を含む長時間勤務が継続しており、被控訴人大器CCは、自身との労働契約に基づく控訴人の労働時間は把握しており、業務を委託していた被控訴人ENEOSとの労働契約に基づく就労状況も比較的容易に把握することができたのであるから、控訴人の業務を軽減する措置を取るべき義務を負っていたというべきである。 しかるに、被控訴人大器CCは、平成26年3月末頃には控訴人がA社との兼業をしている事実を把握したにもかかわらず、兼業の解消を求めることはあったものの、控訴人のA社における就労状況を具体的に把握することなく、同年7月2日に至るまで上記のような長時間の連続勤務をする状態を解消しなかったのであるから、控訴人に対する安全配慮義務違反があったと認められる。 (2)被控訴人大器CC及びA社との労働契約に基づく控訴人の連続かつ長時間労働の発生は、控訴人の積極的な選択の結果生じたものであることは否定できず、控訴人は、連続かつ長時間労働の発生という労働基準法32条及び35条の趣旨を自ら積極的に損なう行動を取っていたものといえる。 しかしながら、使用者である被控訴人大器CCには、労働契約上の一般的な指揮命令権があるのであり、控訴人が法の趣旨に反した長時間かつ連続の就労をしていることを認識した場合には、直ちにそのような状態を除去すべく、現場責任者Bが控訴人の希望する被控訴人大器CCにおける勤務シフトを承認しない等の措置をとることもできたのであるから、上記のような控訴人による積極的な行動があったことは、安全配慮義務違反の有無の判断を直接左右するとはいえず、過失相殺の有無・程度において考慮されるにとどまるというべきである。 また、被控訴人大器CCとしては、控訴人とA社の労働契約関係に直接介入してその労働日数を減少させることができる地位にはないものの、A社としても、兼業によって違法な長時間連続勤務の状態を継続してまで控訴人を自社の従業員として就労させることに固執するとは考えられず、控訴人に対して軽減措置を取るべき義務が否定されるものではない。 (3)被控訴人大器CCに控訴人に対する不法行為法上の違法行為があったとまでは認められず、不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。 (4)控訴人が自ら被控訴人大器CCでの労働日数及び労働時間数を増加させている事情のあること、控訴人とA社との労働契約締結について、控訴人自身が、自身の体調や生活上の事情などを勘案して当該契約を締結するか否かを判断すべき立場にあること、控訴人において同契約の締結を拒むことができないような客観的な事情のない中で、控訴人自ら希望して労働契約を締結し、あるいは就労日を増やしていったものであることなど、本件に表れた一連の経過を踏まえると、A社において控訴人の連続かつ長時間労働に関して不法行為責任を負ったり、労働契約上の安全配慮義務違反があるとまでは認められない。 (5)被控訴人大器CCは基本的に日曜日を休日として設定していること、Bは控訴人に対し、労働法上の問題のあることを指摘し、また、控訴人自身の体調を考慮して休んでほしい旨注意をした上、控訴人に平成26年5月中旬までにはA社の下での就労を確実に辞める旨の約束を取り付けているにもかかわらず、控訴人が自身の判断において積極的に被控訴人らでの兼業を継続していたこと、適応障害発症の契機となった同年6月26日の事情聴取が必ずしも控訴人の利益を違法に侵害するものであったとはいえないことなど、本件に表れた諸事実を踏まえると、被控訴人大器CCが控訴人に対して賠償すべき損害額を算定するに当たっては、控訴人にも相応の過失があったと認められるのであり、4割の過失相殺をするのが相当と認められる。 |