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ID番号 09531
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 地方独立行政法人市立東大阪医療センター(仮処分)事件
争点 勤務場所・勤務内容限定合意に反する配転
事案概要 (1)本件は、債務者(地方独立行政法人市立東大阪医療センター)が指定管理者として運営している三次救急医療機関の大阪府立中河内救命救急センター(以下「中河内センター」という。)において勤務していた医師である債権者が、債務者からの隣接する二次救急医療機関の地方独立行政法人市立東大阪医療センター(以下「東大阪医療センター」という。)への配転命令が無効であると主張して、〈1〉東大阪医療センターにおいて勤務する労働契約上の義務がないことを仮に定めるとともに、〈2〉中河内センターにおける就労請求権を前提に、中河内センターにおける就労を妨害しないことを命じるよう求める事案である。 
(2)判決は、本件配転命令は、債権者と債務者との間に成立した勤務場所・勤務内容限定合意に反するものであるなどにより無効であるとして、債権者の申し立てを認容した。
参照法条 労働契約法
体系項目 配転・出向・転籍・派遣/ 10 配転・出向・転籍・派遣と争訟
裁判年月日 令和4年11月10日
裁判所名 大阪地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和4年(ヨ)10007号
裁判結果 認容
出典 労働判例1283号27頁
D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文 小林徹也、杉島幸生、佐久間ひろみ・季刊労働者の権利350号94~100頁2023年4月
本久洋一・労働法律旬報2035号50~51頁2023年7月10日
石川茉莉(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1593号111~114頁2024年2月
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣/ 10 配転・出向・転籍・派遣と争訟〕
(1)債権者は、遅くとも平成25年4月にG病院で小児救急科長に就任した後、三次救急である中河内センターを中心に一貫して外科、救急科医師として稼働し、重篤かつ緊急を要する多数の症例を担当し、相応の数の手術に従事したと推認され(なお、債権者は、助手としての関与を含め、平成30年1月から平成31年3月までの間に104例、令和2年1月1日から令和3年12月31日までの間に108例のNCDに登録された手術に従事しており、それ以前も相当数の手術に従事したものと推認される。)、債権者が平成31年4月に中河内センターに割愛され、部長という要職に配置されたのも、このような豊富な経験に着目し、中河内センターにおいて引き続き重篤かつ緊急を要する症例を直接又は助手として担当してもらうことが前提であったことは容易に推認される。また、令和4年4月時点ではあるものの、中河内センターで勤務するものとして採用された医師は、債務者が指定管理者である期間中、中河内センターを勤務場所とすることがホームページに掲載されているほか、三次救急という負担の大きい医療機関の医師不足は公知の事実であるところ、東大阪医療センターと中河内センターの救急医療機関としての役割の相違に照らすと、債務者が、中河内センターの医師として採用した医師を、本人の意に反して他の医療機関に配置転換することは何ら予定されていなかったものと推認され、実際にも中河内センターで勤務する医師が、本人の意思に反して東大阪医療センターに配置転換された例については疎明されていないところである。
 このような債権者の経歴、従事してきた医師業務の内容、平成31年4月に中河内センターに割愛された経緯、中河内センターと東大阪医療センターとの救急医療機関としての役割の相違や両センター間の医師の配置転換の実情等に加え、債権者の陳述をも総合すると、債権者が平成31年4月に中河内センターに割愛されるに際し、債権者と債務者との間で、勤務場所を中河内センターとし、勤務内容を外傷・救急外科医としての業務に限定する合意が成立したものと推認するのが相当であり、この認定を左右するに足りる疎明資料はない。
 そうすると、本件配転命令は、債権者と債務者との間に成立した勤務場所・勤務内容限定合意に反するものであるから、その余の点について判断するまでもなく無効というべきである。
(2)本件配転命令については業務上の必要性を肯認できず、同命令により債権者が被る不利益も通常甘受すべき程度を著しく超えるものと認められる。したがって、本件配転命令は、配転命令権の濫用にも当たるから、いずれにせよ無効である。