ID番号 | : | 09532 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 近鉄住宅管理事件 |
争点 | : | マスク非着用による解雇の有効性 |
事案概要 | : | (1) 本件は、分譲マンション、賃貸マンションの管理等を業とする近鉄住宅管理株式会社(以下「被告」という。)の従業員でありマンション管理員として勤務していた原告が、被告から、令和3年6月24日、同年7月31日付けで、〈1〉コロナ感染対策のためのマスク着用という指示に従わず、居住者に不安を抱かせる行為を行ったこと、〈2〉住所変更の届出を怠り、通勤手当を不正受給したことを理由として解雇(普通解雇)する旨の意思表示をされた(以下「本件解雇」という。)。これに対し原告が解雇は無効であるなどとして、〈1〉雇用契約に基づき、未払賃金等及び〈2〉一方的な配置転換(労働条件変更)を迫り、これを拒否すれば自主退職するしかないと迫った被告の行為及び解雇により法的保護に値する人格的利益を違法に侵害されたとして不法行為に基づく慰謝料等、の支払を求める事案である。 なお、原告は、当初は、雇用契約に基づく雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認も求めていたが、定年に達したため、同部分については訴えを取り下げ、被告も取下げに同意した。 (2)判決は、被告に対し、解雇は解雇権を濫用したものとして無効であるなどとして未払賃金等の支払を命じた。 |
参照法条 | : | 労働契約法16条 |
体系項目 | : | 解雇 (民事)/ 解雇事由/ (14) 業務命令違反 |
裁判年月日 | : | 令和4年12月5日 |
裁判所名 | : | 大阪地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和3年(ワ)30045号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 判例時報2570号98頁 判例タイムズ1505号163頁 労働判例1283号13頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 確定 |
評釈論文 | : | 長谷川俊明・国際商事法務51巻6号809頁2023年6月 佐々木達也・労働判例1294号86~93頁2023年11月15日 |
判決理由 | : | 〔 解雇 (民事)/ 解雇事由/ (14) 業務命令違反 〕 (1)原告は、本件マンションで管理員として業務を遂行する際や、通勤の際に、日常的にマスクを着用していなかったことがうかがわれる。そうすると、原告は、本件マンションの管理員として職務を遂行する際に、使用者である被告からの業務上の指示に従っていなかったことになる。 しかし、原告が過去にも被告から同様の行為について注意を受けていたというような事情はうかがわれないこと、潜在的には「マンション内や通勤途中でお見かけした時は、マスクをされていません」、「いつお見かけしても、マスクをされていない」との認定事実の連絡をした住民以外にもマスクを着用しない原告について不快感や不安感を抱いた本件マンションの住民がいたことがうかがわれるものの、現実に被告に寄せられた苦情は1件にとどまっていること、原告の行為が原因となって、本件マンションの管理に係る契約が解約されるというような事態は生じていないこと、H課長も原告に対してマスク未着用に関する注意をしていないことを認めており、ほかに、被告が原告に対してマスク未着用に関する注意をしたことを認めるに足りる証拠もないこと、原告が新型コロナウイルスに感染したことで、本件マンションの住民あるいは被告内部において、いわゆるクラスターが発生したというような事態もうかがわれないことなどからすれば、新型コロナウイルス対策の不履行に関する一連の原告の行動が規律違反(パートタイマー就業規程45条2号)に当たるとはいえるものの、同事情をもって、原告を解雇することが社会通念上相当であるとまではいうことができない。 (2)原告は、被告で勤務を開始した当初は肩書地に居住していたものの、令和2年9月中旬頃、肩書地とは別のマンションに転居しており、通勤経路に変動が生じている。そうすると、原告は、被告に対し、転居の事実(通勤経路の変更)を申告しなければならなかったのであって、申告をせずに従前どおりの通勤手当を受給したことは不正受給となる。 しかし、原告は、勤務期間の途中で転居をしたことで通勤経路が変更になったものであること、原告が、殊更に転居の事実を秘して差額の受給を受けることを意図していたことをうかがわせる証拠はないこと、通勤手当の差額は1か月当たり3000円未満であること、原告の不正受給の合計額も3万円弱にとどまっていること、原告が面談において、遡って通勤手当を清算することを承諾しており、本件訴訟においても、具体的な金額の請求がなされればすぐに支払う意思を示していたことなどからすれば、通勤手当に関する原告の行動が規律違反(パートタイマー就業規程45条14号)に当たるとはいえるものの、同事情をもって、原告を解雇することが社会通念上相当であるとまではいうことができない。 (3)被告が主張する解雇事由を個別にみたとしても、原告を解雇することが社会通念上相当であるといえないことは前記(1)、(2)説示のとおりであり、また、解雇事由を個別にみるのではなく、併せてみたとしても、やはり原告を解雇することが社会通念上相当であるということはできない。 以上からすると、本件解雇は解雇権を濫用したものとして、無効である。 |