全 情 報

ID番号 09535
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 東海交通機械事件
争点 従業員のパワハラについての会社の責任
事案概要 (1) 本件は、新幹線及び在来線鉄道車両の改良・メンテナンス等の車両関係業務、空調設備の設計・工事施工・メンテナンス等の機械関係業務等を請け負っている東海交通機械株式会社(以下「被告会社」という。)の従業員である原告が、主任の先輩従業員であった被告Yから、平成28年3月頃から同年12月29日までの間に、日常的に暴行、暴言、陰湿ないじめ行為などのパワハラを、平成29年2月頃から平成31年4月頃までの間に、威圧的な態度や嫌がらせを受け、被告会社はこれを放置した上、原告の上司による原告に対する嫌がらせ行為をさせたため、原告は被告Yの暴行(平成28年12月29日、E営業所において、原告の顔面を平手打ちし、原告に全治約3週間を要する左外傷性鼓膜損傷及び内耳損傷の傷害を負わせた。)による傷害の後遺症が残るとともに、適応障害及びパニック障害を発症したとして、被告Yに対しては不法行為に基づき、被告会社に対しては被告Yの行為につき民法715条の使用者責任及び労働契約上の債務不履行責任に基づき、被告会社の行為につき不法行為に基づき、損害賠償の支払を求める事案である。
 なお、所轄労働基準監督署は、精神障害専門部会の意見などを踏まえた上で、原告のパニック障害が、平成28年10月頃から同年12月29日までの間に被告Yから受けた暴行により発症したもので業務起因性が認められるとして、原告による労災申請を認める決定をしている。
(2)判決は、被告Yによるパワハラ行為は、被告会社の事業の執行と密接に関連して行われたと認められるから、被告会社は、被告Yのパワハラ行為について、民法715条の使用者責任を負うとして、被告Y及び被告会社に対し、連帯して167万6883円及び遅延利息の支払いを認容し、その余の請求を棄却した。
参照法条 民法623条
民法709条
民法710条
民法715条
体系項目 労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任
労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (24) 職場環境調整義務
裁判年月日 令和4年12月23日
裁判所名 名古屋地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)3415号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働経済判例速報2511号15頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任 〕
〔労働契約 (民事) /労働契約上の権利義務/ (24) 職場環境調整義務〕
(1)被告Yは、原告の作成する書類に誤りが多いことや書類の作成が遅れることから、間違いを生じさせないために行うべきことを紙に書かせて、それを毎朝、他の従業員がいる前で音読させ、また、期限が守れなかった場合には退職するように書かせて、その後、期限が守れなかったとして退職を迫るような言動をしているが、かかる行為は、社会通念上許容される業務上の指導を逸脱した違法なパワハラ行為というべきである。
(2)また、被告Yは、原告が名札を付け忘れたとして名札を取り上げる、原告が使用するモニターを故意に倒して損壊し、原告にモニターが損壊したことを被告会社に報告させる、原告に謝罪のために土下座を求めるなどの行為をしているが、これらの行為も正当化する理由はなく、いずれも原告に対する違法なパワハラ行為である。
(3)被告Yは、平成28年9月5日に原告の頭を殴って、原告の眼鏡を壊したほか、同年12月頃までの間に、原告にいつ退職するのか迫って頭を叩くなどしているが、これらの事実を踏まえると、本件工事の業務が始まった同年4月以降、書類の間違いや作業の遅れについて説教をされ、次第に殴る蹴るといった暴力を加えられるようになったという原告の供述を信用することができるから、遅くとも原告に間違いを生じさせないために行うべきことを他の従業員の前で音読をさせるようになった同年7月頃からは、原告に対する暴行が始まっていたと認めるのが相当である。
(4) 被告Yは、平成28年7月頃から同年12月29日までの間、暴力を含む継続的なパワハラ行為を繰り返していたと認めることができる。被告Yによるパワハラ行為は、被告会社の事業の執行と密接に関連して行われたと認められるから、被告会社は、被告Yのパワハラ行為について、民法715条の使用者責任を負う。
(5) 原告が平成29年1月20日にR病院精神科を受診した後、約1年3か月間、適応障害について病院を受診していないことについて合理的理由が明らかでないこと、パニック障害と診断された当初、原告が症状の出現と被告Yの暴行との関連について全く言及していないこと、原告を適応障害と診断した同病院精神科の医師が、一般的に暴力を受けたこととパニック障害、広場恐怖症に関連があるとはいえないとして、原告のパニック障害と被告Yの暴行との因果関係を診断書に記載することを断っていることに鑑みると、原告の適応障害は、平成29年1月20日にR病院精神科を受診してから平成30年4月27日に再度受診するまでの間に寛解していた可能性が否定できず、他に原告のパニック障害が被告Yによるパワハラ行為に起因していると認めるに足りる事情はないから、原告のパニック障害と被告Yによるパワハラ行為の間に因果関係を認めることはできない。