ID番号 | : | 09537 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 学校法人横浜山手中華学園事件 |
争点 | : | 育休法違反の解雇 |
事案概要 | : | (1)本件は、被告(学校法人横浜山手中華学園事件)が運営する中華学校において教員として勤務していた原告が、母性健康管理措置の申出に係る原告の言動や、2度にわたってされた育児休業の延長の申請がいずれも育児休業期間の終期の直前であったこと等を解雇事由とする普通解雇が無効であると主張して、労働契約上の地位の確認を求め、原告と被告との間の労働契約の賃金請求権及び賞与請求権に基づき、解雇後の未払月例賃金及び賞与等の支払を求めるとともに、同解雇が不法行為であるとして、不法行為の損害賠償請求権に基づき、慰謝料等の支払を求める事案である。 (2)判決は、解雇を無効とし、賃金及び賞与の支払と違法な解雇により原告に生じた精神的苦痛に対する慰謝料30万円等を認容した。 |
参照法条 | : | 労働契約法16条 労働基準法65条 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律10条 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律16条の4 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条 |
体系項目 | : | 女性労働者 (民事)/ 8 育児期間 |
裁判年月日 | : | 令和5年1月17日 |
裁判所名 | : | 横浜地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和3年(ワ)99号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1288号62頁 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | 香川孝三(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1603号150~153頁2024年11月 |
判決理由 | : | 〔女性労働者 (民事)/ 8 育児期間〕 (1)一般に労働者にとって3か月以上にわたる期間の賃金の支払の有無及びその額は重大な関心事であることに照らすと、妊娠中につき新型コロナウイルス感染症への不安のためとして母性健康管理措置としての休業を希望するとの意向を示しつつ、それと同時に休業期間の賃金の支払の有無及びその額について確認を求め、その回答次第では、医師作成による母性健康管理指導事項連絡カード(以下「本件カード」という。)の特記事項欄に記載された「別途の措置」である在宅勤務を希望したり、休業の申出を撤回することは、労働者の対応として直ちに不合理なものとはいい難い。また、本件カードの上記特記事項には、新型コロナウイルス感染症の感染のおそれが低い作業への転換又は出勤の制限として在宅勤務の措置も含まれているから、在宅勤務を希望した原告の対応は医師の指導を無視したものということもできない。 したがって、原告が母性健康管理措置としての休業が認められた後の原告の言動が原告の職務遂行能力又は能率の不足等を基礎付ける事情となるものとはいい難い。 上記に照らすと、休業の取得に関する原告の対応が、直ちに原告の職務遂行能力又は能率の不足等を基礎付ける事情となるものと認められず、これをもって就業規則59条2号の「職務遂行能力または能率が著しく劣り、また向上の見込みがないと認められるとき」に該当するものとはいえない。 (2)育児介護休業法上適法な時期になされた各申出につき、期限直前になって育児休業の延長の申出をするなどしたため人事配置等に混乱が生じたなどとして解雇事由に該当するものとすることは、育児休業の申出を理由として当該労働者に対する解雇その他不利益取扱いを禁ずる育児介護休業法10条に違反するものであって許されない。 以上より、原告が各育児休業を申請したこと(及びその時期)は、就業規則59条2号の「職務遂行能力または能率が著しく劣り、また向上の見込みがないと認められるとき」に該当しない。 (3)原告が軽易業務への転換の請求をしたこと(及びその時期)並びに母性健康管理措置としての休業の申出をしたこと(及びその時期)は、就業規則59条2号の「職務遂行能力または能率が著しく劣り、また向上の見込みがないと認められるとき」に該当しない。 (4)原告が各看護休暇を申請したこと(及びその時期)は、就業規則59条2号の「職務遂行能力または能率が著しく劣り、また向上の見込みがないと認められるとき」に該当しない。 (5)原告は、本件けん責処分について異議を申し立てているところ、懲戒処分に不服を有する労働者が、その撤回を求めて使用者に対して異議を申し立てることは、懲戒処分を受けた労働者の対応として何ら不合理なものではなく、通常想定され得るものであることから、原告が本件けん責処分について異議を申し立てていることが、職務遂行能力又は能率の不足を裏付ける事情に当たるものとはいえない。 原告が本件けん責処分に異議を申し立てたことが、就業規則59条2号の「職務遂行能力または能率が著しく劣り、また向上の見込みがないと認められるとき」に該当するということはできない。 (6)各解雇事由において主張されている事実は、それぞれ就業規則59条2号に該当するものでないし、各解雇事由において主張されている事実を併せ考えても、就業規則59条2号に該当するものでない。よって、本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認めることもできず、権利の濫用として無効である(労働契約法16条)。 また、本件解雇理由は、解雇事由に該当するとはいえず、客観的合理的理由を欠くものであるから、被告が、均等法9条4項ただし書の「前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明した」とはいえず、本件解雇は、原告の妊娠中にされたものとして均等法9条4項に違反するといえ、この点においても、本件解雇は無効というべきである。 (7)原告は、適法な権利行使やそれに伴い通常想定される協議等をしたものであるにもかかわらず、令和2年11月13日の面談において突如として解雇の告知をされるに至っていることや、本件解雇が均等法9条4項に違反する妊娠中の解雇となっている等の経過に鑑みると、本件解雇の違法性は大きいものであって、本件解雇は不法行為を構成するというべきであり、原告には、労働契約上の権利を有する地位の確認が認められ、未払賃金が支払われるとしても、それによって原告の精神的苦痛がおおむね慰謝されたものとみるのは相当でない。 |