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ID番号 09538
事件名 地位確認等請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 アンスティチュ・フランセ日本事件
争点 賃金減額を伴う有期労働契約の更新
事案概要 (1)本件は、フランス語の語学学校を運営する被控訴人「アンスティチュ・フランセ日本」(フランス大使館文化部直下に所属するフランス政府の公式機関であり、フランス語の語学学校を運営する権利能力なき社団)の従業員(フランス語の非常勤講師)である控訴人X1、X2、X3(以下「控訴人ら」という。)が、旧時給表が適用される旨の有期雇用契約(以下「本件旧各契約」という。)を締結していたところ、被控訴人から、平成29年9月30日で契約の期間が終了するに当たり、新時給表が適用される期間の定めがない契約(本件新無期契約)若しくは新時給表とは異なる新たに作成した時給表が適用される6か月の期間の定めがある契約(以下「本件新有期契約」という。)の締結又は同日以後の契約の不更新の選択肢が提示された。このため、平成30年2月に、控訴人らは、被控訴人に対し、契約の期間が無期限である部分については受け入れるとしながら、新時給表の適用については留保して承諾することを明らかにした上で契約書に署名し、これを送付したところ、被控訴人は平成30年4月以降新時給表に基づく報酬を支払った。
 このため、控訴人らは、〈1〉被控訴人に対し、それぞれ旧時給表に基づく報酬を受けるべき雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め(請求1)、〈2〉控訴人X1が、被控訴人に対し、雇用契約に基づき、平成30年4月支払分から令和2年8月分までの旧時給表に基づき算出される報酬の未払分(新時給表に基づき算出され実際に支払われた報酬との差額。以下同様である。)等の支払(請求2)、〈3〉控訴人X2が、被控訴人に対し、雇用契約に基づき、平成30年4月分から令和2年8月分までの報酬の未払分等の支払(請求3)、〈4〉控訴人X3が、被控訴人に対し、雇用契約に基づき、平成31年4月分から令和2年8月分までの報酬の未払分等の支払(請求4)、〈5〉割り当てられた講座の時間が前年に実施された時間数の7割を下回る場合には補償金を支払うとする合意に基づき、平成30年及び令和元年の補償金等の支払(請求5)、をそれぞれ求める事案である。
 一審判決は、控訴人X3の請求5に係る補償金約99万円等の請求は認め、控訴人らのその余の請求は棄却したため、これを不服として控訴人らが本件控訴を提起するとともに、控訴人X3が上記請求5について、予備的に、被控訴人は、控訴人X3に対し、定められた時間数の講座を割り当てなかったと主張し、債務不履行による損害賠償請求権又は定められた時間数の講座を担当した場合に得られた報酬と被控訴人から支払を受けた報酬との差額合計142万3355円等の支払を求める請求を追加し、被控訴人が控訴人X3に対し、附帯控訴を提起した。
(2)控訴審判決は、控訴人ら請求1~4、予備的請求、附帯控訴はいずれも理由がないとして棄却し、控訴人X3の請求5についてのみ99万2938円及びこれに対する令和3年12月3日から支払済みまで年3分の割合による金員の支払を求める限度で認容した。
参照法条 労働契約法19条
体系項目 賃金 (民事) /賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 令和5年1月18日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 判決
事件番号 令和4年(ネ)1329号 /令和4年(ネ)3730号
裁判結果 控訴棄却、予備的請求棄却、附帯控訴棄却
出典 労働判例1295号43頁
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 青木克也・民商法雑誌159巻6号198~209頁2024年2月
梅木佳則・経営法曹220号80~87頁2024年6月
長谷川聡・専修法学論集148号165~184頁2023年7月
判決理由 〔賃金 (民事) /賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
(1)控訴人らの行為は、本件労使協定に基づき、本件旧各契約の終了後につき、本件新有期契約の締結、本件新無期契約の締結か被控訴人との雇用契約の終了のいずれかの選択肢しかない中で、本件新無期契約の締結に応じた以上、新たに旧時給表の適用の申込みをしたものということができる。
 この点、控訴人らは、本件新無期契約の申込みに対する留保付き承諾は、本件旧各契約の更新とは選択的な提案であり、上記留保付き承諾の意思表示は、本件旧各契約の更新の申入れと相容れない行為ではないと主張するが、上記のとおり、上記承諾の意思表示が有期契約の更新を求めるものではなかったことは明らかであるから、控訴人らの上記主張は採用することができない。
(2) 控訴人らは、平成30年4月以降の控訴人らと被控訴人との間の労働契約の内容は、継続的な契約関係である労働契約関係における信義則(労契法3条4項、民法1条2項)に基づき、従前の労働契約の基準によって暫定的に補充され、旧時給表が適用されると主張する。
 しかし、控訴人らは、本件新無期契約の締結に応じたものということができるから、控訴人らの上記主張は、採用することができない。